最新記事

レイプ

ドイツよ、お前もか!

首相も女性で男女平等が進んでいると思われた国の恐ろしい現実

2014年5月20日(火)16時30分
ジェーソン・オーバードーフ

性の対象じゃない! ベルリンで行われた反レイプデモ Sean Gallup/Getty Images

 驚いた。豊かで厳格そうなこの国でも、「嫌よ嫌よも好きのうち」がまかり通るらしい。

 ドイツ西部ノルトライン・ウェストファーレン州の裁判所が、12年に15歳の少女をレイプした容疑で起訴された男性に無罪判決を言い渡した。少女は「やめて」とはっきり拒絶し、叫び声も上げたが、それだけではレイプと断定するには不十分だとされた。

 この判決に女性の権利擁護団体は激しく反発した。だが先ごろ発表された研究報告書によると、こうしたケースは決してまれではないことが分かっている。

 ニーダーザクセン州の州都ハノーバーにある犯罪研究所の調べでは、ドイツでのレイプ裁判で有罪判決が出る確率は、過去20年で22%から8%に減少している。

 この結果に女性団体はそれほど驚きを示さない。ドイツ連邦女性カウンセリングセンターのアニタ・エックハートは、この国の司法が「極めて保守的だからだ」と語る。「1997年になってようやく、夫婦間のレイプが犯罪とされた」

 犯罪研究所の報告書はまた、各州の貧富の差によって、有罪判決率に大きな違いがあることもつきとめた。

 ドイツで最も裕福な3州では、レイプ裁判の有罪率は24%。レイプ被害の届け出件数には3分の1の減少がみられた。他方、最貧3州ではレイプ被害の届け出件数は40%増加しているにもかかわらず、有罪率はわずか4%だった。

 とはいえ、ドイツが男尊女卑の問題に取り組んでいないわけではない。メルケル政権は閣僚の4割を女性で占め、企業の役員は3割を女性に割り当てるよう促している。現在、ドイツの大企業の役員に就いている女性の割合は約10%だ。

 それでも男女平等社会は実現していない。例えば、いまだに子育ては女性の仕事という固定観念は根強い。働く母親は「カラスの母鳥」と揶揄される。カラスの母鳥はヒナ鳥が飛べるようになる前に巣から追い出すことを、ほのめかした言い回しだ。

「多くの面で女性の人生は改善されたけれど」と、エックハートは言う。「構造的な差別やメディアが映し出すイメージ、人々の偏見をみると、私たちの道のりはまだ長い」

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中