最新記事

軍事

専守防衛を捨てたドイツ軍の行く先は

徴兵制をやめ即戦力を目指した改革が進むが、ナチスのような軍国主義への回帰を危惧する声も

2013年11月12日(火)15時33分
ジェーソン・オーバードーフ

役割が拡大 アフガニスタン国軍と共同で北部のパトロールにあたるドイツ軍兵士(2012年) Fabrizio Bensch-Reuters

 ドイツ空軍のユルゲン・ローゼ中佐は、07年にアフガニスタンでの作戦の部隊編成を命じられたとき、ドイツ兵特有の権利を行使してこれを拒んだ。米軍主導のタリバン空爆作戦を助けるため、戦闘機6機で偵察隊を編成する任務は、国際法違反ではないかと考えたからだ。

 あれから6年が過ぎた今、ローゼはドイツ兵が無条件に命令に従うという、あの悲惨な歴史を招いた姿勢に戻りつつあるのではないかと危惧する。ドイツ軍では2年前から包括的な見直しが進む。徴兵制を廃止し、プロフェッショナル集団の軍隊をつくる方針もその1つだ。それは2つの大戦を招いた軍国主義への回帰を意味すると、ローゼは指摘する。「批判的思考を持つ人間が軍隊にいなくなる」

 第二次大戦の反省から専守防衛を原則としてきたドイツ軍が転機を迎えたのは、90年代のカンボジア、ソマリア、旧ユーゴスラビアへの派兵だ。最高裁は、議会の承認を得たものなら憲法違反ではないとの判断を下した。

 そして01年の9.11テロ後、ドイツ軍の方向性に本格的な変化が表れ始めた。ペーター・シュトルック国防相(当時)が、「アフガニスタンの防衛はわが国の安全保障のため」と述べ、アフガン派兵を主導した。

 しかし先月、ドイツ軍がアフガニスタンから撤退したのを機に、国内では軍の外国派兵についていま一度原点に戻るべきだという声が高まっている。

 そもそもドイツ国民は、アフガン派兵も平和部隊のような復興任務だろうと想像していた。ところがドイツ兵が殺害に加担し、自軍から戦死者も出すようになり、対外軍事介入の正当性と意義について論争が巻き起こるようになったのだ。

一兵士の良心の重みは

 米軍の無人機作戦のために情報を提供することは、ドイツの憲法に反するとの見方もある。

「提供した情報を標的殺害などの超法規的行為に使うことを禁じる、という文言がすべてのメールに記されてはいるが」と、ドイツ国際安全保障研究所のマルセル・ディコウは言う。「多くの場合、ドイツの情報機関は自分たちがアメリカに提供した情報が具体的にどの作戦に利用されているのか知らない」

 そんな「聞かざる言わざる」の方針は、「軍服を着た一般市民」と呼ばれるドイツ兵の精神に反するという批判がある。第二次大戦後のドイツでは、ナチスのような軍事政権の復活を防ぐために軍隊の任務は専守防衛に限定され、文民統制が敷かれた。そして兵士たちは自分の良心に従い、命令に黙従しないことと定められた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ司法改革を上院承認、判事公選制に 法の支配

ビジネス

「ザラ」のインディテックス、秋冬物の販売急増 株価

ワールド

ベトナム、上流のダム放流を懸念 中国外務省「氾濫防

ワールド

アングル:中国、アフリカ債務免除に踏み込まず 新た
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 2
    クルスク州「重要な補給路」がHIMARSのターゲットに...ロシアの浮橋が「跡形もなく」破壊される瞬間
  • 3
    非喫煙者も「喫煙所が足りない」と思っていた──喫煙所不足が招く「マナー違反」
  • 4
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンシ…
  • 5
    運河に浮かぶのは「人間の手」? 通報を受けた警官…
  • 6
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 9
    「生後45日までの子犬、宅配便で配送します」 韓国ペ…
  • 10
    米大統領選でトランプ・バンス陣営を襲う「ソファで…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 6
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 7
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻…
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 10
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中