最新記事

インド

フェイスブックで子供が売られた!

孫の赤ん坊をFBで売ることを思いついた幼児売買・誘拐大国の闇

2013年5月17日(金)15時51分
ジェーソン・オーバードーフ

スラムドッグ 幼児失踪事件のうち警察が捜査を行うのは少数でしかない Gerry Images

 赤ん坊の孫をフェイスブックで「売却」した祖父を逮捕──。4月末にインド北部パンジャブ州の警察がそう発表すると、多くの人がショックを受けた。

 しかし、その陰で見落とされている事実がある。この国では子供の売買は決して珍しくない。政府の試算では、11年に失踪した子供は約9万人。政府は多くが家出で後に帰宅しているというが、行方不明のままの子供が3万5000人近くいる。捜査が行われたケースは1万5000件にとどまる。

 フェイスブックで売られた子は、幸運だった。母親の通報を受けて警察がすぐに動き、男の子を確保した。「祖父がデリーの人物と話をつけ、病院職員を仲間に引き込んで赤ん坊を運び出していた」と、地元警察の本部長は説明している。

 これは例外的なケースだ。現実には、親が警察に届け出ても相手にされないことが多い。特に、貧しいスラム地区に暮らす一家だと、警察は家出だと決め付けがちだ。最初から家族の関与を疑って掛かる場合もある。

 しかし、親や親族が意図的に子供を売り飛ばすケースは極めて少ないと、児童保護の専門家らは指摘する。「私たちが扱う事件の大多数で、いい職やいい暮らしが待っていると約束されて、子供を手放している」と、非営利団体「セーブ・ザ・チャイルドフッド運動」の弁護士ブワン・リブは言う。

 親にはいくらかの金が渡されるが、子供の将来の給料からの前払い金だと説明される。金を受け取らせることで、親に罪悪感を持たせ、警察に届けづらくさせようという思惑なのだろう。

 あらゆる人身取引を厳しく取り締まる法律が今年に入って施行されたが、親たちの届け出を受け付けることに消極的な警察の姿勢は変わっていない。インドのメール・トゥデー紙によれば、届け出を取り下げるよう迫ったり、金を要求したりするケースもあった。

 最近も、4月に拉致されてレイプの被害に遭った5歳の少女の親を警察が「買収」しようとした疑惑が浮上している。娘がいなくなったと親が届け出たとき、警察はすぐに捜査しなかった。その事実を隠蔽するために、口止め料を用意したとされる。

 これらは氷山の一角だ。リブによれば、「1時間に10人のペースで子供が失踪していると見ているが、捜査が行われる割合はそのうちの1人だけ」なのだ。

From GlobalPost.com特約

[2013年5月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中