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海を渡ってきた悲劇の「遺物」

桟橋からサッカーボールまで 東日本大震災の津波で 海に流れ出た大量の瓦礫が 米西海岸に漂着し始めた

2012年10月19日(金)15時00分
ウィンストン・ロス

最初は興味本位 市民の漂着物探しは次第にビーチ清掃の地域奉仕活動に発展している Reuters

 これから数カ月、アメリカ西海岸には、太平洋の反対側の国で1年半前に起きた悲劇の「遺物」が続々と押し寄せるはずだ。

 秋になると毎年、強い偏西風に運ばれて、太平洋上に大量に浮かんでいるごみの一部がアメリカの海岸に流れ着く。今年は、昨年3月11日の東日本大震災の津波で洋上にさらわれた家屋、漁船、桟橋などの大量の瓦礫、さらには被災した人の遺体も漂着するかもしれない。

 今年6月、オレゴン州ニューポートのアゲートビーチという砂浜に大きな浮桟橋が漂着すると、地元は大騒ぎになった。その浮桟橋が長さ約20メートル、高さ約2メートル、重さ150トンという巨大なものだったというだけではない。漢字の書かれたプレートが付いていて、アメリカに生息していない生物が表面にびっしり付着していたのだ。

 オレゴン州ポートランドの日本総領事館が調べたところ、地元住民の最悪の不安が的中したことがすぐ分かった。桟橋は、日本の青森県三沢市の漁港にあったものだった。東日本大震災の津波にさらわれて流出した瓦礫がアメリカ西海岸に漂着し始めたのだ。これは、予想されていたよりだいぶ早い時期だった。

 一晩明けると、漂着した浮桟橋はたちまち観光名所に様変わりしていた。ビーチを管理するオレゴン州公園局にとっては頭痛の種でしかない。州は警備隊員を現場に派遣し、若者たちが浮桟橋に上って遊ぶのをやめさせようとしたが、効果はほとんどなかった。

 それから2カ月ほどの間に、8万5000ドルの費用を掛けて浮桟橋は解体・撤去された。浮桟橋の側面に「壁画」を描くなどしていたファンたちはがっかりしたが、解体・撤去以外に選択肢はなかったと、州当局は主張する。漂着した瓦礫をいつまでもビーチに放置するわけにはいかない、というわけだ。

 この先数カ月、アメリカ西海岸のオレゴン州、ワシントン州、カリフォルニア州とアラスカ州、そして太平洋上のハワイ州は、ますますこうした問題に悩まされるだろう。まだ海に浮かんでいて、これから漂着する可能性のある瓦礫が大量にある。

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