最新記事

内戦

シリア政府軍、裏切りの武器売買

反政府勢力の武器仕入れ先は敵である政府軍。アサドよりもカネを愛する彼らが敵に高値で武器を売る

2012年7月12日(木)15時04分
トレーシー・シェルトン(ジャーナリスト)

裏取引 自由シリア軍の戦闘員の武器の40%は政府軍から購入したもの Shaam News Network-Reuters

 シリア北西部のジャバル・アッザーウィヤにある反政府武装勢力・自由シリア軍(FSA)の基地。男たちの一団が緊張気味の捕虜を独房から連れ出し、外で待つ車に乗せた。数時間後、彼らは大量の武器を手に入れて戻ってきた。

 新しい弾丸やロケット弾を倉庫に運ぶ男たちの横で、9カ月前に政府軍から離脱して自由シリア軍に合流したハムザ・ファタハッラーが「取引」の仕組みを説明してくれた。

「われわれは政府軍の兵士をたくさん捕虜にした。もう軍には戻らないという条件で、少額の現金と引き換えに彼らを故郷に帰してやるんだ。その金でわれわれは武器を買っている」

 今回の捕虜の「代金」は500ドル。この金で最も有力な仕入れ先から弾薬を買うことができると、ファタハッラーは言う。最有力の仕入れ先とは──彼らの敵、シリア政府軍のことだ。

 この奇妙な取引は、バシャル・アサド大統領の現体制に対する武装蜂起が始まった当初から続いている。ファタハッラーの推定によれば、彼の住む村では武器の40%は政府軍から買ったものだ。捕虜の解放と引き換えに手に入れた現金は8万ドル近く。すべて武器の購入に充てる予定だと、ファタハッラーは言う。

 その他の50%は戦闘で奪い取った武器。残りの10%は外国からの援助や密輸品、あるいは民間の武器商人から購入したものだという。この市場調達分の大半はイラクから流入している。

 体制側(少なくとも忠誠心の薄い軍人たち)にとって、敵への武器供給は「おいしい」ビジネスだ。政府軍の将校たちはAK47自動小銃の弾を1発約4ドルで売っているが、内戦前の相場は10分の1以下だったと、ジャバル・アッザーウィヤ地域で反政府武装勢力の総司令官を務めるアフメッド・アッシェイフは言う。
 
 アッシェイフの指揮下にある8個大隊、約6000人の戦闘員は「シャームの鷹」と呼ばれている(シャームはヨルダン、レバノンなどを含む歴史上の「大シリア」地域のこと)。

売り手の大半は将校たち

 アッシェイフによると、AK47の取引相場は1000ドルほど。ロケット砲は砲弾4発付きで最大4000ドルするという。

「(政府軍の)将校連中が武器を売るのは、革命を支持しているからではない。カネを愛しているからだ」と、アッシェイフは言う。「奴らは現体制ではなく、自分の財布に忠誠を誓っている」

 売り手の大半は将校クラスだが、中には下士官以下の兵士が政府軍の武器庫から盗んだ武器や弾薬を売るケースもある。

 この取引は必ずしもスムーズにいくとは限らない。自由シリア軍の基地で昼食を終えた男たちが休憩中、大きな爆発音がして全員が慌てて立ち上がった。彼らが心配していたとおり、前日の夜に購入したAK47の弾が仕掛け爆弾だったのだ。幸い、この日は1人の死傷者も出なかった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

2月ロイター企業調査:高市政権の積極財政に6割超が

ビジネス

2月ロイター企業調査:台湾発言から3カ月、日中関係

ワールド

米、ウズベキスタンの重要鉱物への採掘投資で協定締結

ビジネス

エリオット、LSEGに事業見直しと50億ポンド自社
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 3
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方...勝利のカギは「精密大量攻撃」に
  • 4
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 10
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではな…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中