最新記事

英王室

「エリザベスEU女王」が欧州を救う

分裂の危機に瀕するヨーロッパには、エリザベス女王のような君主が必要だ

2012年6月6日(水)15時06分
エドワード・ハダス

資格は十分 格式ばった王室と活気ある民主主義を両立したエリザベス女王(6月5日、ロンドン) Andrew Winning-Reuters

 イギリスのエリザベス女王に手紙を出すときの宛て先は、「Her Majesty The Queen(女王陛下)」だけでいい。住所はもちろん、どこの女王かさえ書かなくても届く。だったら、いっそどこの女王でもいいのではないか?

 即位60年を記念する「ダイヤモンド・ジュビリー」のお祝いに、提案したいことがある。彼女をヨーロッパの女王に迎えるのだ。

 もちろんこんな提案が、次のEU(欧州連合)首脳会議で話し合われることはないだろう。危機的状況にあるスペインの銀行の救済案にすら合意できないヨーロッパの首脳たちが、同じ君主を戴くことでまとまれるはずはない。ヨーロッパの王に名乗りを上げた最後の人物はナポレオンだが、彼についてはいまも多くの批判がある。さらに、政治家に過剰なほど気をつかうエリザベス女王が、そんなことを主張するとは思えない。

 それでもこれは魅力的なアイデアだ。EUには全体を一つにまとめられる指導者が存在しない。今のところEUが頼りにできるのは、星が連なる欧州旗と官僚たちの交渉の歴史くらいだ。そんなものに、戴冠の儀式を経た国王に対するような愛着を抱くことはできない。

英王室も元はドイツ系、女王の夫はギリシャ系

 現在のイギリス王室は元をたどればドイツ系の血筋であり、エリザベス女王の夫はギリシャ王家の出身。彼女が全ヨーロッパの王位に就くのに障害は少なそうだ。言葉の問題もない。フランスびいきの人々には申し訳ないが、英語はすでに共通語となっている。エリザベス女王の存在が、それぞれの国の国家主権を脅かすこともない。彼女は英連邦15カ国の女王でもある。

 彼女がヨーロッパ女王になれば、政治的にも世界に恩恵をもたらすだろう。アメリカ人はイギリス王室には強い関心を持っているが、EUにはさほど興味がない。だがもしヨーロッパが、歴史と威厳を備えた女王を戴くよういなれば、アメリカ人も敬意を払うようになる。EUを懐疑的にみるイギリス人も、自分たちの女王が君主になるなら好意的になるだろう。

 問題がないこともない。まず、数少なくなったイギリス以外のヨーロッパの王家は、イギリス王室より格下に扱われるのを嫌がるだろう。

 それでもイギリス王室は、全ヨーロッパの王室となるにふさわしい。今回の即位60年祝賀行事を見てもわかるように、彼らほど見事に民主主義と王室らしい荘厳さを兼ね備えた存在はない。昨年のウィリアム王子とキャサリン妃のロイヤルウェディングだって、頑固な共和主義を除けば、ヨーロッパ中の人々が熱狂していたではないか。

© 2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中