最新記事

アラブ世界

独裁者たちのSNS活用法

独裁体制を倒す武器になったツイッターやフェイスブックを体制側が「逆利用」して、世論の誘導を図っている

2012年5月24日(木)14時52分
ジェニファー・クーンズ

世論工作 バーレーン政府はハマド国王(中央)の写真をフェイスブックやツイッターに投稿するよう支持者に呼び掛けた Hamad I Mohammed-Reuters

 アラブ世界の人々にとって、ツイッターやフェイスブックは独裁体制を倒すための有効な手段になった。だが当初はSNSの急速な台頭に不意を突かれた強権的な政権も、どうやら流行に追い付き始めたようだ。一部では政権側がSNSを積極的に活用する動きも出てきた。

 反体制活動に手を焼く多くの政府は、ある種の両面作戦で「フェイスブック革命」に対抗している。昔ながらの強権的な弾圧を続ける一方で、SNSを活用して体制側の価値観を広めようとしているのだ。

「既に思想警察がネット上で暗躍している」と、アメリカのNGO「ジャーナリスト保護委員会」のモハメッド・アブデル・ダイエムは言う。「ツイッターやフェイスブックなどのSNSでの存在感は特に大きい。彼らは人々を脅し、『不信心者』と罵っている」

 今後はこの種の世論工作が力ずくの弾圧に代わって主流になると、ワシントンのメディアアナリスト兼弁護士ジェフリー・ガナムは言う。「アラブ諸国の政府がネットの統制やアクセス制限を完全にやめることはないだろうが、これからはネット上で自分たちの見方を主張することに力を入れ始めると思う」

「(エジプトを暫定統治する)軍最高評議会もフェイスブックとツイッターを使っている」と、ガナムは言う。「そのやり方は必ずしもスマートではないし、オンライン上には多くの批判的コメントが集まっている。それでも、彼らが自分の意見をネット上で表明しているというのは大きな変化だ」

反ツイッターの宗教令も

 一部には、従来のプロパガンダと同じにおいを感じるネット工作もある。バーレーン政府は「われわれは皆ハマドだ」と名付けたキャンペーンを立ち上げ、ハマド国王の写真をフェイスブックやツイッターのページに投稿するよう支持者に呼び掛けた。

 一方、チュニジアではモンセフ・マルズーキ大統領を含む政府当局者がツイッターに参加している。ヨルダンでも王族や首都アンマンの市長がフェイスブックやツイッターを使い、有権者に直接語り掛けている。

 ただしアラブ諸国の政府は、従来の強権的なやり方を放棄する気はないようだ。さらに、SNSが不心得者をあぶり出す道具に使えることに気付いた当局者も少なくない。

 例えばモロッコ当局は2月、「モロッコの神聖な価値観を中傷した」として、国王モハメド6世の写真と動画をフェイスブックに投稿した18歳の大学生を逮捕した。3月には、国王批判の動画をYouTubeに投稿した24歳の大学生が有罪を宣告されている。

 サウジアラビアでは23歳のブロガー、ハムザ・カシュガリが不敬罪で告発され、死刑の危機に直面している。預言者ムハンマドとの架空の会話をツイッターに投稿したためだ。

 カシュガリの「つぶやき」が大騒ぎを引き起こすと、サウジアラビアのイスラム法の最高権威である大ムフティーは、ツイッターを非難するファトワ(宗教令)を発表。アラブ首長国連邦(UAE)の英字紙ザ・ナショナルによると、大ムフティーは「真のイスラム教徒」に対して、「中傷が飛び交い、虚偽を広める」ツイッターを使わないよう呼び掛けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ・メディア、株主にデジタルトークン配布へ 

ワールド

台湾、警戒態勢維持 中国は演習終了 習氏「台湾統一

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.6万件減の19.9万件

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 10
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中