最新記事

東南アジア

「ビルマの春」は早過ぎる?

民主化と経済改革が進み経済制裁の解除も近い──その一方で、性急過ぎる変化に不安の声も付きまとう

2012年5月11日(金)16時20分
ウィリアム・ロイドジョージ(ジャーナリスト)

自由の象徴 ラングーン市内の遊説先では支持者がスー・チーの肖像を掲げて出迎えた(3月21日) REUTERS

「この街は変わった」とチョー・リンは言う。ビルマ(ミャンマー)最大の都市ラングーン(ヤンゴン)のことだ。「みんな今は自由に話せる。やっと光が見え始めている」

 チョー・リンも軍事政権によるお粗末な政権運営に長いこと怒りを感じていた若者の1人だ。そのうちビルマに見切りをつけて外国で暮らすことを夢見るようになった。「金をためてシンガポールに行くつもりだった。でもこうなってみると、ビルマにいるのも悪くない気がしている」と、チョー・リンは言う。

 自由と公正さを欠いたとされる選挙で昨年3月に権力の座に就いたテイン・セイン大統領だが、就任後は次々と改革に着手。おかげで多くの国民が自国への誇りを取り戻している。「以前はビルマ人であることが恥ずかしかった」と、チョー・リンは言う。「でも改革が始まり、再び外国からも関心を持たれるようになった。ビルマはアジアの主要国になれるかもしれない」

 目に見える変化の最たるものは民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーの姿が至る所にあふれていることだ。壁にはポスターが張られ、彼女の写真が新聞の一面を飾る。何より老いも若きも堂々とスー・チー支持のTシャツを着て街を歩いている。ほんの1年ほど前なら秘密警察から嫌がらせの1つも受けたはずだ。

 スー・チーは一昨年11月に軟禁を解かれて政界に復帰した。スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)は来月1日に予定されている連邦議会補欠選挙への参加を認められており、スー・チー自身も出馬する。スー・チーは選挙に向けてビルマ各地を遊説、首都ネピドーで支持集会を開くことさえ許されている。

 ビルマ政府は経済改革にも着手している。為替制度については公定レートと実勢レートの「二重為替レート」を解消するため、近く管理変動相場制を導入する見込みだ。ロイター通信によれば、新たな外国投資法の下では外国企業は5年間の免税措置を受けられる可能性がある。

 何より明るい兆しは今年1月、300人を超える政治犯が釈放されたこと。メディアに対する検閲も緩和されているようだ。政府はほとんどの少数民族武装勢力との停戦を目指している。一部勢力とは対話すらなかった1年前からすれば大きな前進だ。

 とはいえスー・チーは選挙妨害とみられる不正を告発している。NLDの遊説場所は制限されている一方で、与党・連邦団結発展党(USDP)は不当に優遇されているという。3月上旬には有権者登録名簿に故人が含まれているのが見つかり、選挙管理委員会に改善を要求した。「選挙管理委員会の出方を注視する必要がある。投票まで3週間半しかないのだから迅速に対応してもらわなくては」と、スー・チーは語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 5
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 6
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 7
    米フーターズ破綻の陰で──「見られること」を仕事に…
  • 8
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 9
    メーガン妃とヘンリー王子の「自撮り写真」が話題に.…
  • 10
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中