最新記事

アフガニスタン

タリバン同時襲撃を招いた米軍陰謀論

住民16人を惨殺した米兵の蛮行に見て見ぬふりをした米軍に対して住民は不信感を募らせていた

2012年4月17日(火)15時30分
ベッテ・ダム

同時テロ タリバンはカブールの政府庁舎や外国大使館を一斉に襲った(4月16日) Omar Sobhani-Reuters

 米兵が住民16人を惨殺したアフガニスタン南部カンダハル州の町ザンギアバッドに入った。途中の道沿いにある集落はことごとく破壊されていた。路肩に散らばる黒焦げの車の残骸は、自爆テロの置き土産だろうか。

 一昨年来の大攻勢で、米軍はこの地を基地の町へと変えた。人影の絶えた街路には、1.5キロ置きに検問の米兵が立つ。空には監視カメラを備えた気球が浮かび、昼夜を問わず町の全域に目を光らせている。

 それでもロバート・ベイルズ2等軍曹は、誰に気付かれることもなくベラムベイ基地を脱け出し、3時間かけて住民を殺しまくったとされる。

 誰にも邪魔されず、彼は少なくとも3軒の民家に押し入った。複数の住民の証言によると、ある家では11人の遺体を積み上げ、火を放ったという。

 3月11日の凶行から1週間がたち、遺族や友人たちは今、大きな疑問を抱いている。すぐ近くに米軍基地があるのに、なぜこんな蛮行が見逃されたのか。さまざまな噂と陰謀説が飛び交い、住民の怒りは沸騰している。

 ベラムベイ基地は町の中心部にあり、数㌔先には別な基地もある。だがどちらの基地からも、軍曹の乱射事件を止めに来る者はいなかった。

 ハジ・ヌール・モハメド(60)にとって、基地にいた米兵があの大虐殺に気付かなかったという話は信じ難い。彼の住む泥れんがの家は、犯行現場の民家と民家の間にある。「あいつの銃撃音は静かな夜空に響き渡った。基地にいた米兵には絶対に聞こえたはずだ」

 ベラムベイ基地はモハメドの家から2㌔足らずの距離。夜なら必ず監視塔に当直の兵士がいるから、一部始終が見えたはずだと彼は言う。

 アフガニスタンで活動する国際治安支援部隊(ISAF)の広報官は、まだ捜査中なので基地の兵士に銃撃音が聞こえたかどうかは不明だとしている。

複数犯を見たという声も

 ISAFからの明確な発表がないため、現地では陰謀説が盛り上がり、そもそも1人の犯行ではないとの声も上がっている。

 AP通信によると、アメリカ側はそうした噂を打ち消すため、アフガニスタンの治安当局に対し、軍曹が1人で出頭してきたときの映像を開示したという。

 だが地元の農民モハメド・ワディは、彼の親族であり今回の銃撃で夫を失った女性が複数の兵士を見た、と証言している。

「1人の兵士が部屋に押し入り、彼女の頭を床に押し付け、夫を撃った。その後、彼女は庭に兵士が2人いるのを見た」

「アメリカは単独犯と思わせたいのだろう」と、州議会議長のハジ・アクハ・ラライ・ダステギリは言う。「だが現場に居合わせた住民たちは、アメリカが虐殺の真相を隠そうとしていると考えている」

 部族の長老ハジ・カーン・アクハは、この事件で堪忍袋の緒を切らし、村を代表して米軍の即時撤退を求める手紙をしたためた。「もはや米軍との共存はあり得ない」と彼は言う。

 事件で家族3人が負傷した高齢の村民ハジ・メボーブも、その手紙に署名した1人だ。もう謝罪は要らない、と彼は言う。6年前にも、タリバン幹部の殺害を目的とした米軍の爆撃で住民50人以上が殺されている。そのときも「米軍は二度と一般人は殺さないと誓っていた。もうだまされない」。

 長老のアクハが言う。「アメリカはこの地域に学校建設などで100万㌦を投資するそうだ。でも、誰のためだ? 米軍が残るのなら私たちは去る。アメリカは善意で駐留していると言われても、もう誰も信じない」

[2012年3月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国製造業PMI、11月は8カ月連続50割れ 非製

ワールド

香港火災、犠牲者追悼の動き広がる 150人依然不明

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ周辺空域「全面閉鎖」と警告

ワールド

エアバス機不具合、CEOが謝罪 世界の航空会社に影
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 10
    香港大規模火災で市民の不満噴出、中国の政治統制強…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中