最新記事

考古学

中国に現る!最強の恐竜ハンター

中国各地で次々と化石を発見する古生物学者、徐星が、恐竜の進化と移動に関する従来の学説を根底から覆す?

2012年1月6日(金)16時53分
ローレン・ヒルガース(ジャーナリスト)

発見を連発 自分は古生物学者になるために生まれてきた、という徐星(2010年1月、北京) Barry Huang-Reuters

 北京から南東へ600キロ。山東省のひなびた地方にある飛行機の格納庫で、古生物学者の徐星(シュイ・シン、42)はほろ酔い加減の観光客をぼんやり眺めていた。

 観光客は靴を脱いで座り込み、ハドロサウルスの巨大な大腿骨をカメラに収めようとしている。9900万年前の白亜紀後期に生息したアヒルのような平たい口部を持つ草食恐竜の化石だ。

 骨は高さ約1.5メートル。中国語で「恐竜の化石をなでてみよう」と書かれた表示がある。地元では恐竜の骨に触れば幸運が訪れると信じられている。

 中国は近年、恐竜の化石の発見ラッシュに沸いている。なかでも徐が発掘を手掛ける山東省の諸城市は、最新かつ最も重要な化石発掘場だ。格納庫からそう遠くない場所にある発掘溝をのぞくと、砂岩の表面に巨大な骨が無秩序に散乱している。

 諸城市はおそらく、世界最大の恐竜化石の宝庫だ。徐は世界の誰よりも、重要な化石発掘に関与した恐竜ハンターと言えるかもしれない。「徐星は恐竜研究の歴史上、最も多くの新種を紹介した」と、米ペンシルベニア大学のピーター・ドッドソン教授は言う。徐本人は発見した新種の数を正確には覚えていないが、「30ぐらい」だと言う。

 徐は過去15年間、遼寧省で羽毛のあるドロマエオサウルス、新疆ウイグル自治区で肉食恐竜の獣脚類、内モンゴル自治区でダチョウに似たシノオルニトミムスの発見に関わった。いずれも恐竜の生態と進化をめぐる従来の学説を書き換えるだろうとみられている発見だ。

「中国は広大な国で、化石の埋まった岩が大量にある」と、諸城市で3年間発掘調査に携わったイギリスの古生物学者デービッド・ホーンは言う。

始祖鳥は恐竜だったのか

 北米大陸では三畳紀後期(2億2800万〜1億9960万年前)、ジュラ紀後期(1億6110万〜1億4550万年前)、白亜紀後期(9950万年〜6550万年前)の化石が数多く発見されているが、その中間期に生息した恐竜の化石はほとんど見つかっていない。

 ホーンによれば、中国の化石は恐竜の進化と移動の「時間的空白」を埋める貴重な手掛かりだ。北米、アジア、ヨーロッパの恐竜の類似点から、かつて存在した古大陸を恐竜がどう移動したかが分かる可能性がある。

 遼寧省と新疆ウイグル自治区の化石は鳥類の起源解明に役立ちそうだ。徐は、現代の鳥類は恐竜から進化したと考えている。

 徐の最新の発見の1つで、シャオティンギア・チョンギと命名されたニワトリぐらいの大きさの恐竜は、長いこと鳥類の祖先とされてきた始祖鳥の分類を見直すきっかけになるかもしれない。始祖鳥も「羽毛恐竜」の一種であることを示す証拠がシャオティンギアだと、徐は主張している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

エヌビディア決算に注目、AI業界の試金石に=今週の

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく 砂漠化する地域も 
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 6
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 7
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 8
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    【独占】高橋一生が「台湾有事」題材のドラマ『零日…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中