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ヒラリーのビルマ訪問は中国へのけん制?

クリントン米国務長官の歴史的な訪問の陰に見えるビルマの中国依存と核開発疑惑への懸念

2011年12月5日(月)17時13分
パトリック・ウィン

鉄の女たち 民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー(右)の自宅を訪れたクリントン(12月2日) Soe Zeya Tun-Reuters

 ほんの数カ月前には考えられなかったことだ。先週、ヒラリー・クリントン米国務長官によるビルマ(ミャンマー)訪問が実現した。ビルマは抑圧的な軍事政権のために欧米から経済制裁を受け、孤立してきたが、今回の訪問でアメリカとの敵対関係が雪解けへと向かうかもしれない。

 ビルマに対するアメリカの要求ははっきりしている。約1600人に上る政治犯を釈放すること、国民の自由や交易を抑圧するのをやめること、そして少数民族の武装組織との紛争を沈静化することだ。

 ビルマでは既に変化が始まっている。新政権は、これまでのビルマをよく知る人々を驚かせるような改革を次々に実行してきた。ビルマ議会は、5日前までに届け出さえすればデモ活動を許可するという新法案までも成立させる見込みだ。

 銀行では、間もなくATMの導入が認められる。折りしもIMF(国際通貨基金)は、ビルマの無秩序な為替制度を改善しようと調査を行っているところだ。この制度のために、これまでビルマ国民の多くが闇取引に走ってきた。

 しかし、今回のクリントン訪問の真の狙いは別にあるのかもしれない。例えば、ビルマが経済的に大きく依存する中国へのけん制だ。

 2010〜11年における外国からビルマへの投資額200億ドルのうち、実に70%を中国が占めている。中国はビルマに次々と巨大プロジェクトを持ち込み、豊富な資源を掘り起こして中国へ供給しようとしている。さらに、インド洋へ抜けるルートを確保するため、ビルマの港を「裏口」として利用しようと画策している。

 クリントン訪問の真の目的は、ビルマにおいて中国の影響力が大きくなり過ぎる前に足掛かりをつけることだったのだろうか。クリントン側は、こうした見方を否定している。「今回ビルマに接触したことは、中国とはいっさい関係ない」と、国務省のマーク・トナー副報道官は言う。だが、中国の影響力拡大にアメリカが懸念を強めているのは確かだ。

オバマ政権は慎重な発言に終始

 さらにもう一つアメリカを悩ませているのが、ビルマの核兵器開発疑惑だ。クリントンは以前、北朝鮮がビルマに核技術を移転しているという疑惑について語ったことがある。国際原子力機関(IAEA)の元査察官であるロバート・ケリーも昨年、この開発計画はおそらく実在すると話した。それでも、「技術レベルは極めて低く、部品の多くはホームセンターで売っているような代物だ」という。
 
 ビルマの抑圧的な政権と高官レベルで接触することは、まだ時期尚早なのではないか――そうした批判に備えて、オバマ政権は今回の訪問に関して慎重な発言に終始している。オバマも外交当局も、ビルマに「民主主義の光」が見え始めたことは認めつつも、こうした改革は立ち消えになることもあり得る、と付け加えている。

 一方、クリントンはビルマ訪問を前に、期待の声を漏らした。こうした光に「火がつき、改革に向けた大きなうねりとなってビルマ国民に恩恵をもたらすことを願う」とクリントンは語った。

 それが実現するかどうかは、軍人上がりのビルマの政治家たちが、より大きな変革を本気で望むかどうかに懸かっている。
  
GlobalPost.com特約

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