最新記事

選挙

エジプトで躍進、ムスリム同胞団の正体

選挙を前に人気が高まるムスリム同胞団は市民の味方か、さらなる混乱を呼ぶ過激派か

2011年11月28日(月)10時58分
クリストファー・ディッキー(中東総局長) ババク・デガンピシェ(ベイルート支局長)

「イスラムの覚醒」? モスクで祈りを捧げるムスリム同胞団のメンバーたち(カイロ、11月25日) Amr Abdallah Dalsh-Reuters

 今年2月、エジプトの首都カイロの中心部。タハリール広場に近い路地は血まみれだった。窮地を救ったのはムスリム同胞団だ──路地の入り口で、エンジニアで政治活動家のマムドゥーハ・ハムザ(63)はそう語った。

 路地の程近くにある仮設の病院では、ホスニ・ムバラク大統領の退陣を求めるデモの参加者が治療を受けていた。デモ隊は先週、ムバラク支持派の集団と衝突。多くの参加者が殴られ、刺され、火炎瓶を投げ付けられた。

 それでも、デモ隊は踏みとどまった。すべてはムスリム同胞団の増援のおかげだ、とハムザはタハリール広場の群衆を見渡して言う。「ここにいる人々の約4割がムスリム同胞団のメンバーだ。彼らは非常に大きな要素になった」

 それが事実なら、大きな疑問が浮かび上がる。ムスリム同胞団の重要性はどこまで拡大するのか。

 イスラム原理主義を根幹とするムスリム同胞団は、エジプトの国内外で不安の的になっている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、先ごろ議会で行った演説でエジプト情勢に触れ、イランのイスラム革命を引き合いに出した。79年に起きたこの革命で、イランはイスラム神権体制の国になり、イスラエルの頼りになる友人から最も危険な敵に変貌した、と。

エジプト政府のおかげで反政府派の「顔」に

 しかしエジプトでは、ムバラク派と民衆の衝突が激しくなるにつれ、ムスリム同胞団の人気は高まる一方だ。「エジプト政府のやり方のおかげで、ムスリム同胞団は反政府派の『顔』になっている」と指摘するのは、アメリカの人類学者でイスラム過激派やテロに詳しいスコット・アトランだ。

 同胞団の規模はいまだ小さく、支持者は10万人を超えないという(エジプトの人口は約8000万人)。しかし、いずれムバラクが消えた後も、最後に残るのはムスリム同胞団だと、アトランは言う。「彼らは大昔から存在し続け、決して消えない」。

 1928年にムスリム同胞団を創始したハッサン・アル・バンナはイスラム教の理念を説きつつも、当時盛んだった各種の思想運動を利用した。「当初はファシズムや共産主義に基づく民兵集団であり、だからこそ生き残った」と、アトランは言う。「敵対勢力の力が強くなれば分散し、弱くなれば結集した」

 同胞団は生き残りのため、あらゆるすべを駆使した。50〜60年代のエジプトでは、ガマル・アブデル・ナセル大統領に徹底的に弾圧された。それでも70年代には、政治勢力として息を吹き返した。

 70年にナセルが死去した後、後任のサダトは同胞団との和解に乗り出した。当時は冷戦の真っただ中。アラブ世界各地で力を付ける共産主義系政党の影響力をそぐのに、同胞団が役立つと考えたためだ。だが77年、パンの値上げに抗議する民衆の暴動に同胞団が加わると、サダトは弾圧路線に回帰した。

 一方、イスラエルは左派のパレスチナ人組織に対抗しようという思惑の下、ガザ地区でムスリム同胞団の活動を奨励していた。そこから生まれた組織が、あのハマスだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米銀大手9行に「デバンキング」行為、規制当局が報告

ワールド

インタビュー:中国人の不動産爆買い「ピーク過ぎ、今

ワールド

韓国ハンファ、水中ドローン開発で米防衛スタートアッ

ワールド

ブラジル下院、ボルソナロ氏の刑期短縮法案を可決 大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中