最新記事

選挙

エジプトで躍進、ムスリム同胞団の正体

2011年11月28日(月)10時58分
クリストファー・ディッキー(中東総局長) ババク・デガンピシェ(ベイルート支局長)

アルカイダ幹部が明かす意外な「穏健さ」

 ムスリム同胞団から派生した組織はハマスにとどまらない。中には、今や同胞団の敵に変貌したグループもある。

 国際テロ組織アルカイダの最高幹部アイマン・アル・ザワヒリは若い頃、同胞団の思想家に師事していた。しかしザワヒリは、「その政治活動の始めから、同胞団は『偽イスラム』の臆病者で、平和的手段でエジプト政界に参加しようとしている」と非難し続けている。

 図らずもムスリム同胞団の穏健さを証明するザワヒリの言葉にもかかわらず、イスラム過激派の温床として批判されがちなサウジアラビアは同胞団に深い疑念を抱いている。

 本誌は、サウジアラビア情報機関と関係が深い複数のアナリストが昨年取りまとめた資料を入手。それによると、豊富な資金力で国際展開するムスリム同胞団は遠くマレーシアまで手を伸ばし、「その過激な主張を広めるため穏健派を装う政治家」を利用しているという。

 エジプト国外のイスラム主義者や過激派は、エジプト民衆の勝利はイスラム教の勝利だと言わんばかりだ。イランの最高指導者のハメネイ師は、エジプトについて「イスラムの覚醒」の兆候だと発言した。ムスリム同胞団は直ちに反論した。ムバラクへの反乱はイスラム教徒ではなく「エジプト国民の革命」だ──デモ隊が落ち着きを取り戻すなか、その言葉は真実だと証明されつつある。

 自由で公正な選挙が実施される限り、ムスリム同胞団は今後しばらくイスラム教国で重要な役割を果たすだろう。民主主義とは、集団の気まぐれな意思の発露でなく、組織力だ。民主主義国家では、有権者の支持を最も多く得た政党が政権を担う。

 エジプト国民は長年、ムスリム同胞団を間近で見てきた。開かれた平和的な政治体制が実現すれば、同胞団は近い将来、神秘的な集団でなくなるはずだ。

 ノーベル文学賞を受賞したエジプト人作家ナギーブ・マフフーズは57年にこう書いた。「知識の普及が、光がコウモリを追い払うように彼らを追いやるだろう」

 アラブ世界の政府がようやくその事実を理解したとき、ムスリム同胞団は脅威であることをやめるはずだ。

[2011年2月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高と円安を好感 直近の戻

ワールド

シンガポール非石油輸出、5月は前年比3.5%減 大

ビジネス

ボーイング幹部、エア・インディア本社訪問 墜落事故

ビジネス

ソフトバンクG、Tモバイル株売却で48億ドル調達=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 8
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中