最新記事

中東

エジプトが沸いた30年ぶりの自由選挙

国軍に対する抗議デモが続くなか実施された選挙に興奮するエジプト市民、その想いは報われるか

2011年11月29日(火)17時51分
ジョン・ジェンセン

この一票 投票のためなら長蛇の列や数々の不手際も気にならない(28日、カイロ) Ahmed Jadallah-Reuters

 今年2月にムバラク政権が崩壊したエジプトで11月28日、各地に長蛇の列ができた。政権崩壊後初のエジプト人民議会選(下院に相当)が始まったのだ(来年1月までに3段階に分けて実施され、上院に当たる諮問評議会の選挙は1〜3月に行われる)。

 複数政党が参加する自由で公正な選挙がエジプトで実施されるのは、実に30年以上ぶり。ムバラク後の暫定政権を担う国軍に抗議するデモが相次ぐ中、この日を待ちわびていた市民らは投票所に何時間も並び続けた。

「これまでの選挙では選択肢がなかった」と、初めて投票にやってきたカイロ在住の41歳の男性は語った。「勝てないかもしれないが、少なくとも自分たちの声を届ける機会にはなる」

不正投票や脅迫行為は目立たず

 もっとも、すべてが順調とは言いがたい。エジプト国軍による暫定政権は「自由で公正」な選挙を行うと請け合っているが、選挙管理当局に寄せられた違反行為の報告は数百件にのぼる。

 例えば、投票は朝8時に全国一斉に始まるはずだったが、多くの有権者が場内に入れず、中には7時間待たされたケースもあった。投票箱がなかったり、投票用紙に必要なスタンプが押されていないなどの不手際も続発。他にも以下のような選挙違反が報告されている。


・投票開始前の48時間はいかなる選挙活動も禁じられているが、多くの政党が投票所の外で支持を訴えた。

・必要書類を持参していたにもかかわらず、治安部隊に投票所の取材を拒否されたジャーナリストが数人いた。

・選挙管理当局の複数の職員が投票所になかなか姿を見せず、予定時間に投票を開始できなかった。

・カイロ市内の投票所に投票箱を届けなかった警官1人が停職処分を受けた。この投票所では、投票開始が10時間遅れた。

・少なくとも1人の立候補者が、選挙違反疑惑をめぐって罵りあいを繰り広げた。


 それでも、2010年の議会選でムバラク率いる与党・国民民主党が大勝したときのような大規模な不正投票や脅迫行為はなかったようだ。ムバラク時代には、カイロの市街地で銃声が聞こえるのが当たり前だった。

 エジプト国民の大半も、今回の選挙は総じて透明性の高いものだったと楽観的に考えている。「投票所でずいぶん待たされたが、それは想定内だ。これは長い年月で初めての本物の選挙だ」と、カイロ市街地選出の候補者、アイマン・タハは言う。「こんな歴史的な選挙に出馬していることを嬉しく思う」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中