最新記事

中東

バーレーン危機にサウジが怯える理由

ペルシャ湾の島国に飛び火した反体制デモは、アラブの大国サウジアラビアを揺るがしかねない

2011年2月21日(月)18時09分
カリル・マーフィー

止まらない連鎖 バーレーンの首都マナマの真珠広場には連日、デモ隊が集結している(2月15日) Hamad I Mohammed-Reuters

 2月18日午後、バーレーンの首都マナマの中心部に位置する真珠広場をめざして、数千人が街を練り歩いていた。前日のデモに参加して命を落とした市民の葬儀を終えて、広場に集まってきたのだ。待ち受けていた治安部隊は、非武装の群衆に向けて発砲。この衝突で50人が負傷し、少なくとも4人が死亡したと伝えられる。
 
 14日に始まったバーレーンの反政府デモは日を追うごとに激しさを増している。政府は19日に軍を真珠広場から撤退させてデモ隊に対話を呼び掛けたが、応じる気配はない。アメリカがバーレーン当局にたびたび自制を求めている中で起きた武力行使は、近隣諸国にも多大な影響を与えかねない。

 中東を席巻する民主化運動の連鎖がペルシャ湾の島国バーレーンにまで及んだ事態に、とりわけ懸念を募らせているのがサウジアラビアだ。バーレーンとサウジアラビアは共に王政国家で、親しい同盟国でもある。1カ月足らずの間にチュニジアとエジプトで国家元首がその座を追われるという非常事態の中、サウジアラビアにとって隣国バーレーンの王政崩壊は絶対に避けたい展開だ。

中東騒乱の元凶はイランとアメリカ?

 公式声明は出していないものの、バーレーンの騒乱に関するサウジ当局の姿勢は明らかだ。サウジを含む湾岸協力会議(GCC)の6つの加盟国の外相は16日にマナマで緊急会談を開き、バーレーン王室を支持する声明を出した。

 さらに、バーレーンの国内問題に対する外国の干渉を拒否する意思も示された。これはアメリカとイランを意識したものだろう。ヒラリー・クリントン米国務長官によると、17日に行われたバーレーン外相との電話会談で、クリントンは「明日の葬儀と礼拝が、武力行使によって損なわれないことが重要だと強調した」という。

 サウジアラビアの視点に立てば、中東に広がる反政府デモを生み出した元凶はイランとアメリカ、ということになる。イランはアラブ諸国の問題に首を突っ込んでは、厄介を引き起こすトラブルメーカーだ。そのため、アラブ世界全域でイスラム教スンニ派とシーア派の対立意識が高まっている。
 
 エジプトの「革命」に対するアメリカの対応も、サウジアラビアにとっては衝撃的だった。アメリカはデモ隊を支持する立場で介入し、30年来の盟友ホスニ・ムバラク大統領を見捨てた。

 こうした状況を考えれば、サウジアラビアがバーレーンを自国の安全保障の要と考えるのはもっともだ。王族が政治を司る絶対君主制のサウジアラビアに対して、バーレーンは二院制議会をもつ立憲君主国だが、両国ともスンニ派の王族が支配している点は共通している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中