最新記事

メディア

だから新聞はつまらない

問題は記者クラブだけじゃない。現場至上主義にとらわれるあまり思考停止に陥った記者による報道の「構造劣化」が進んでいる

2011年1月12日(水)13時23分
横田 孝(本誌編集長・国際版東京特派員)、長岡義博(本誌記者)、知久敏之(同)、小暮聡子(同)

取りあえず殺到 菅直人を取り囲む記者団(昨年1月、財務相任命時) Toru Hanai-Reuters

「マスゴミ」。さまざまな誹謗中傷や罵詈雑言が飛び交うインターネットで、日本の新聞はテレビと並んでこんなありがたくない称号を与えられている。

 権力におもねり、自主検閲し、揚げ句の果てにできた記事は横並びで偏向的──今も日本メディアの「王者」であるはずの新聞をあげつらう声は尽きない。

 その最大の原因として、今なお指摘されるのが記者クラブだ。省庁や警察など公共機関への取材活動を円滑化するために主要メディアで構成されるこの組織は、一義的には政府当局などによる情報提供と記者同士の交流の場だ。その一方で、記者クラブは一部に公開の動きはあるにせよ、雑誌やフリージャーナリスト、外国特派員を排除し続けている。

 確かに、その閉鎖性やなれ合い文化は日本のジャーナリズムにとって大きな弊害だ。政府権力と癒着した主要メディアの記者たちが「よそ者」を排除して情報を独占する代わりに、権力の言いなりになってしまう──。

 もっともらしいストーリーではある。ただ日本のジャーナリズム、特に新聞の間で進む深刻な構造疲労は、記者クラブをめぐる単純な「物語」への批判だけでは解決しない。

 コピーしたように横並びの一面トップ、政局しか伝えない政治面、事件記者が狂奔する警察捜査の「前打ち」スクープ、企業のプレスリリースに毛が生えた程度のビジネス記事......記者クラブ問題は、横並びで批判精神に欠けるこういった記事が生まれる原因のごく一部にすぎない。

 本当の問題は「シンブンキシャ」という人種の多くが思考停止していることにある。その原因は、失敗を過度に恐れる文化や硬直した企業体質、それに現場主義と客観報道の妄信にある。結果、日本の新聞は、世界屈指とも言えるその組織力や記者の潜在力を生かし切れていない。新聞を「マスゴミ」と批判する側も、記者クラブ問題に目を奪われるあまり、本当に処置すべき病根を見逃している。

 その思考停止の度合いが甚だしいのは、国家権力の中枢である永田町や霞が関に棲息する政治部記者、なかでも最近生まれた「タイピスト記者」と呼ぶべき「亜種」たちかもしれない。...本文続く

──ここから先は1月12日発売の『ニューズウィーク日本版』 2011年1月19日号をご覧ください。
<デジタル版のご購入はこちら
<iPad版、iPhone版のご購入はこちら
<定期購読のお申し込みはこちら
 または書店、駅売店にてお求めください。

併せて、ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジ訴追の動きに米ジャーナリストが猛反発しない理由を探った
■「なぜメディアは沈黙するのか」もご覧ください
<最新号の目次はこちら

[2011年1月19日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中