最新記事

メディア

グーグル検索は国営メディアに有利?

ニュース検索で上位に表示されるサイトのなかに、ロシアや中国など、報道の自由が制約された国の政府系メディアが多い理由

2010年11月22日(月)16時08分
ジョシュア・キーティング(フォーリン・ポリシー誌編集者)

見えない真実 モスクワの抗議集会で、オレグ・カシン記者の襲撃事件の真相解明を求める市民(11月10日) Denis Sinyakov-Reuters

 この前、私はビクトル・ボウトという人物のことを知りたいと思って、グーグルニュースを検索してみた。08年にタイで逮捕されて、11月16日にアメリカ当局に身柄を引き渡されたロシアの武器商人である。

 検索結果(英語)の画面で一番先頭に表示されたのは、ロシアの国有通信社ロシア・ノーボスチの記事。公正な裁判を求めるロシア外相の声明を紹介した記事だった。これに続いて検索結果の上位には、CBSニュースやAFP通信など欧米の報道機関の記事と、ロシアの英語テレビ放送ロシア・トゥデイ(RT)など政府系メディアの記事が混ざっていた。

 2週間前にビルマ(ミャンマー)総選挙のニュースを検索していれば、軍事政権による選挙の不正を非難するUPI通信やロサンゼルス・タイムズなどのアメリカのメディアの記事が見つかっただろう。しかしそれだけでなく、この選挙を「一歩前進」と評価する中国共産党機関紙の人民日報系英字紙グローバル・タイムズの記事も表示されたはずだ。

 確かに、国際的で多様な視点のニュースを提供することがグーグルニュース開設の趣旨だ。しかしそこで紹介されている「視点」のなかには、ロシアや中国など、自由な報道が阻害されたり禁じられている国の政府系メディアの記事が少なくない。

 さまざまなニュース配信主体が同等の条件で競い合える場をつくり出した結果、グーグルニュースは、専制的な政府がメッセージを発信しやすくしてしまったのか。

露骨なロシア政府寄りの報道

「ウェブのおかげで(それまでより多くの人たちに)ニュースを届けられる可能性が開けた」と、RTのマルガリータ・シモニアン編集長は私宛の電子メールで語った。

 RTは5年前、ロシア・ノーボスチなどによって設立された。ロシアの対外的なイメージを改善するのが目的と見られているが、ロシア政府寄りの報道はしていないとRTは主張する。

 とはいえ、RTの国際ニュース報道は親ロシア的な傾向が強いと感じる人もいる。08年にロシアとグルジアが軍事衝突した際、RTはグルジア軍部隊の「ジェノサイド(大量虐殺)」を非難したが、ロシア軍が襲撃したグルジア人の村を取材しないよう記者たちに指示したと伝えられている。

 グーグルがどのようなアルゴリズムを用いて、検索結果の表示順位を決めているのかは公表されていない。報道機関は上位にニュースを表示させるため、さまざまな知恵を絞っている。RTのシモニアン編集長はどのような対策を取っているのか明かそうとしないが、ロシア関連のニュースの検索結果を見る限り、成功を収めつつあるようだ。

 厳密な研究結果とは言えないものの、グーグルニュースではおおむね2次情報よりも1次情報の報道の表示順位が高いと指摘されている。そうだとすれば、専制的な国の政府系メディアが有利なのもうなづける。予算削減のせいで欧米の報道機関が現地に記者を送り込めなくなったり、イランやロシアでは欧米のジャーナリストの取材が制限されるケースが多いからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、追浜工場の生産を27年度末に終了 日産自動車

ビジネス

独ZEW景気期待指数、7月は52.7へ上昇 予想上

ワールド

米大統領、兵器提供でモスクワ攻撃可能かゼレンスキー

ビジネス

世界の投資家心理が急回復、2月以来の強気水準=Bo
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中