最新記事

英総選挙

クレッグ自民党が英政界をぶっ壊す

2010年4月28日(水)18時38分
アン・アップルボム(ジャーナリスト)

武器は抜群のテレビ映りのよさ

 だがここ数年、議会の重要性は衰えている。新世代の有権者には古いルールや慣習は通じない。その一方、政治家がテレビを通じて好印象を与えることの重要度は増している。そして今回の討論で証明されたとおり、クレッグのテレビ映りは抜群だった。

 彼の「良さ」の1つは、気取りのない態度だ。最初から失うものなどない彼は、テレビ討論では2人のライバルたちよりずっとリラックスしているように見えた。

 さらに彼はタブーを破った。たとえば、移民の流入を問題視していない。彼の国際的なバックグラウンドも魅力の1つといえそうだ。母はオランダ人、妻はスペイン人で子供たちはバイリンガルだ。何の確証もないが、政治家たちが思う以上にイギリスの有権者は少しずつ「ヨーロッパ人化」しているのかもしれない。

 あるいは、有権者たちは97年からイギリスを率いてきた労働党に心から飽き飽きしているだけなのかもしれない。「現代的な」保守党のデービッド・キャメロン党首が、彼自身が言うほど現代的だとの確信が持てないのかもしれない。

 議員の経費流用スキャンダルで有権者が2大政党に辟易したことも確かだ。経費問題は両党に同じくらい大打撃を与えた。有権者は政治にはたいてい異論があるもので、とりわけ不況時には強い不満を抱くものだ。

 理由はどうであれ、クレッグの支持率は最初のテレビ討論以降、急上昇している。一部の世論調査では自民党の支持率は労働党を上回っている。

「選挙で選ばれた独裁政権」

 最初は保守党も労働党も、この現象を面白がっていた(「クレッグって誰だ?」という具合に)。だが選挙が近づくにつれ、両党は面白がるのをやめた。

 今の支持率が選挙当日まで続けば、労働党は政党支持率で3位でありながら最大議席を守るかもしれない(イギリスは小選挙区制のためにそれがあり得る)。保守党が勝つ可能性はあるが、政権交代に必要な過半数を取ることはできないだろう。

 自由民主党はどちらの政党とも連立を組むことができるが、その代償としてクレッグが求めているのはイギリスの選挙制度の刷新だ。

 それは、この国の政治文化からすれば考えられない大改革になる。多くの欧州諸国では選挙は比例代表制で行われ、結果として議会には政党が乱立。連立政権が組まれることが多い。だがイギリスはアメリカと同じく小選挙区制を採用しているために、2大政党制が形成され、通常は単独政権が誕生する。しかもアメリカと比べ、権力を分散させるための機能ははるかに弱い。

 いわゆるイギリスの一般的な有権者は、こうしたイギリスの政治制度を尊重していると見られてきた。「選挙で選ばれたわが国の独裁政権」と誇らしげに語ることさえある。だからこそ保守党と労働党は、不吉な警告を発しているのだ。(自民党に投票すれば)イギリス的な総選挙はこれで最後になる。私たちがよく知っている政治はこれで終わる、と。

 この警告が奏功すれば、有権者の支持を取り返すことができるかもしれない。しかし現時点ではイギリスの有権者たちは、おなじみの政治を終わらせることにためらいはなさそうだ。それも、早ければ早いほどいいと考えているようだ。

*Slate特約
http://www.slate.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

〔マクロスコープ〕迫るタイムリミット? ソフトバン

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 演習2日

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重

ワールド

シリア前政権犠牲者の集団墓地、ロイター報道後に暫定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中