最新記事

軍事

世界の海をめざす中国海軍の危険な野望

「遠洋防衛」戦略に転じた中国の海軍増強は、アジアのパワーバランスを崩し米中関係を揺るがしかねない

2010年4月28日(水)16時16分
HDS・グリーンウェイ

海の大国へ 中国は海の覇権争いに乗り出す決意を明確にした(写真は09年4月23日、中国人民解放軍海軍創立60周年を記念した観艦式で) Guang Niu-Reuters

 今からおよそ600年前、大航海時代を迎えたヨーロッパ人がアジアに到達する数十年前、中国は既に7回に渡って南洋に海洋探検隊を派遣していた。探検隊はマラッカ海峡を経てインド洋を目指し、アフリカ東海岸やアラビア半島にも到達した。「壮大な権力の誇示」と歴史家が呼ぶ一連の大航海は、近隣諸国を驚かせ、ときには脅かしもしたが、中国の影響力が及んでいなかった地域との交易を始めるチャンスも生み出した。

 21世紀の現在、中国は海洋軍事力を増強し、経済大国ぶりを誇示する一環として再び世界各地に艦艇を送り込もうとしている。石油や原材料の供給窓口となる各地の港に艦艇を展開するという「遠洋防衛」戦略を発表し、海軍力増強の意図を世界中に知らしめた。

 明朝の前半に当たる15世紀、中国の船舶技術は世界でも群を抜いていた。中国は船尾舵をヨーロッパより1200年も早く発明しており、4つのデッキと4本のマストなどを備えた400フィートの大型帆船まであった。

 7回の大航海の指揮を取ったのは、イスラム教徒の宦官で武将の鄭和。1405年から1433年にかけて、中国艦隊ははるか遠方の国々にも朝貢方式(周辺国が中国の優位性を認めて貢物を捧げ、その見返りとして中国皇帝から恩賜を受ける)を拡大。明王朝は地球上で最も広大で裕福な帝国となった。

「これほど多くの人口を擁し、これほど多くの偉大な都市をもち、これほど高い生活水準を維持している国は他になかった」と、歴史小説家のモーリス・コリスは記している。「人間が望みうるあらゆるものが、最高の芸術家の手によって提供されていた」

インド周辺に着々と拠点を築く

 だが、中国の大航海時代は、その始まりと同じくらい突然に終わりを迎える。艦艇は海上から姿を消し、中国は陸の大国として国内の支配強化に集中。その後二度と、海軍を遠洋に展開することはなかった──最近までは。

 中国東海艦隊の副司令官が語ったように、最近の中国の「海軍戦略は変わりつつあり、沿岸防衛から遠海防衛にシフトしようとしている」。

 中国が輸入する石油の多くはアラビア半島からマラッカ海峡経由で運ばれており、今の中国が覇権をめざす海域は、15世紀に鄭和が切り拓いた地域とまさに重なっている。だとすれば、米海軍が世界のシーレーンの安全を請け負っている状況に、中国はもはや満足しないだろう。

 こうした動きに神経をとがさせているのがインドだ。中国は港湾建設に協力するなどしてインド周辺国に着々と拠点を築いている。ビルマやバングラディシュ、スリランカ、モルディブ、モーリシャス、セーシェルなどと政治外交上の絆を深め、パキスタンに対しても、アラビア湾に面した街グワダルの新たな港の建設を支援している。

 インド洋でのプレゼンスを高めたいという中国海軍の野心を抑え込むため、インドは自国の海軍を使って中国の艦艇を守るという案を検討している。もっとも、中国がそんな申し出を受け入れるとは思えないが。

 インドは自国を成長中の超大国であり、中国のライバルと見なしている。インドが核兵器を開発した際には、長年のライバルであるパキスタンへの抑止力以上に、中国への対抗手段という意味合いが強いと口を滑らせたインド人政治家もいた。

ニュース速報

ワールド

再送-情報BOX:バイデン政権の閣僚・要職候補者の

ビジネス

ユーロ圏CPI、11月速報値は前年比ー0.3% 4

ワールド

菅首相と小池都知事、高齢者などのGoToトラベル自

ビジネス

イタリア成長率、第3四半期は前期比+15.9% 回

MAGAZINE

特集:202X年の癌治療

2020-12・ 8号(12/ 1発売)

ロボット手術と遺伝子診療で治療を極限まで合理化 ── 日本と世界の最先端医療が癌を克服する日

人気ランキング

  • 1

    世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...

  • 2

    マオリ語で「陰毛」という名のビール、醸造会社が謝罪 

  • 3

    トランプが要求したウィスコンシン州の一部再集計、バイデンのリードが拡大に

  • 4

    日本の外交敗北──中国に反論できない日本を確認しに…

  • 5

    「なぜ、暗黒物質のない銀河が存在するのか」を示す…

  • 6

    夢の国ディズニーで働くキャストの本音

  • 7

    「実は誰も会った人がいない」韓国政界で囁かれる文…

  • 8

    プレステ5がネット販売で「1秒後に売り切れ」、ゲー…

  • 9

    「夢の国」ディズニーの......リストラが止まらない

  • 10

    金正恩「女子大生クラブ」主要メンバー6人を公開処刑

  • 1

    世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...

  • 2

    プレステ5がネット販売で「1秒後に売り切れ」、ゲーマーの怒りのツイートがあふれる

  • 3

    次期米国務長官から「車にはねられ、轢かれた犬」と見捨てられたイギリス

  • 4

    「燃える水道水」を3年間放置した自治体を動かした中…

  • 5

    熱烈なBTSファンの娘に、親として言いたいこと

  • 6

    11月13日、小惑星が地球に最も接近していた......

  • 7

    中国政府、少数民族弾圧はウイグルに留まらず 朝鮮族…

  • 8

    マオリ語で「陰毛」という名のビール、醸造会社が謝…

  • 9

    オバマ回顧録は在任中の各国リーダーを容赦なく斬り…

  • 10

    トランプが要求したウィスコンシン州の一部再集計、…

  • 1

    アメリカ大統領選挙、郵政公社がペンシルベニア州集配センターで1700通の投票用紙発見

  • 2

    世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...

  • 3

    半月形の頭部を持つヘビ? 切断しても再生し、両方生き続ける生物が米国で話題に

  • 4

    アメリカを震撼させるオオスズメバチ、初めての駆除…

  • 5

    女性陸上アスリート赤外線盗撮の卑劣手口 肌露出多…

  • 6

    アメリカ大統領選挙、ペンシルベニア州裁判所が郵便投…

  • 7

    事実上、大統領・上院多数・下院多数が民主党になる…

  • 8

    プレステ5がネット販売で「1秒後に売り切れ」、ゲー…

  • 9

    世界のワクチン開発競争に日本が「負けた」理由

  • 10

    米爆撃機2機が中国の防空識別圏に異例の進入

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月