最新記事

米中関係

中国外交の「仁義なき戦い」

中国政府の一貫しない対米政策は、政府内部で強硬派と穏健派が対立している証拠だ

2010年3月5日(金)17時20分
ジョシュ・ローギン

暗中模索 アメリカとの関わり方とめぐる中国の混乱は続いている(09年10月の米中合同商業貿易委員会) Aly Song-Reuters

 アジア問題を担当する米政府高官2人が今週中国を訪問し、国務省が言うところの米中の「緊張関係」が修復に向かい始めたと歓迎された。だがオバマ政権内部の当局者たちの眼には、ここ数週間の出来事がアメリカへの対応に中国政府が内部で苦慮していることを示す証拠に映った。

 ジェームズ・スタインバーグ国務副長官とジェフリー・ベーダー国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長が訪中した第一の目的は、イランへの新たな制裁に協力するよう中国政府を説得すること。今回の会談は、アメリカが台湾への武器輸出を決め、オバマがチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と面会した直後のことだった。

 オバマ政権はこの2つの出来事が中国を刺激するのを最小限に抑えようと努めた。複数の米外交当局者が語ったところでは、中国の反応はほぼ予想通りだったという。中国は報復措置として一部の軍事交流をキャンセルする一方で、米原子力空母ニミッツの香港寄港を予定通り許可した。2月初めに予定されていたスタインバーグの訪中は抗議の一部として延期されたが、中国は結局わずか数週間後にスタインバーグを歓迎した。

 この2つの外交問題に続いて中国が示した態度は、共産党内部で自信を高める強硬派と影響力が衰えつつある穏健派の間で意見対立が激化している証拠かもしれない。

「どう対処すべきか自信を失った中国外務省が、強硬派に対して最後の抵抗を試みているように見える」と、オバマ政権のあるアジア担当高官は言う。「中国政府内で勢力を増す強硬派が『我々の出番だ』と叫ぶ一方で、アメリカについて『まだ見限るべきではない。しばらくは彼らが必要だ』と言う者たちもいる」

 台湾への武器輸出とダライ・ラマとの面会に対する中国政府の反応は断続的だった。前者に対しては控えめで用心深い反応を示し、勢力拡大中のネチズンなど国内世論から批判されると後者に対してより強硬に反応した----と、この当局者は説明する。

緩やか過ぎる中国の「チェンジ」

 この件に詳しいほかのオバマ政権当局者も、中国の官僚組織はオバマ政権への対応を模索するなかで激しく揺れ動いており、強硬派と穏健派が最善策をめぐって争っているとみている。

「中国政府は現在、対米関係のあらゆる懸案事項に同時進行的に対応するのに苦心している。あまりに多くの案件を抱え込んでいるので、事が複雑になっている」と、この高官は説明する。「政府組織の間で火花や爆発が見える」

 例えば、アメリカが台湾への武器輸出を発表するに当たって中国は米企業に制裁を加えると脅したが、これまでのところその後の動きは何もない。「単なる口先だけのことだったのか、これからやろうとしているのか」と、この高官は首を傾げる。「結局どういうことなのか、まだ何も見えない」

 アジア専門家の中には、中国の政府組織内で何が起きているのかはそれほど重要ではないという見方もある。

「中国研究はますますかつてのソ連研究に似てきている。新しいクレムリノロジー(ソ連研究)だ」と、保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」研究員のマイケル・オースリンは言う。「重要なのは過程ではなくその結論だ」

 オースリンによれば、中国は地球温暖化や為替の公平性、サイバーセキュリティー、人権問題の解決に積極的になったわけではないし、オバマ政権の対中政策も世界の大国として成熟するよう圧力をかける明確で包括的なメッセージを欠いている。

「みな『茶葉占い』に時間をかけ過ぎていて、カップの中にそれほどお茶がないことに気付いていない」と、オースリンは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ情勢、人質解放と停戦実現を心から歓迎=林官房長

ビジネス

サムスン電子、第3四半期は32%営業増益へ AI需

ワールド

パキスタンがアフガン国境で警戒強化、週末の衝突で数

ワールド

米にレアアース輸出規制事前通知、実務者協議も実施=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中