最新記事

ネット

中国との戦いに勝ち目はない

自由で開放されたグーグル方式は敗北必至。来るべき世界を支配するのは、中国流の情報統制国家だ

2010年2月23日(火)15時38分
マーチン・ジャクス(ジャーナリスト)

 真実を直視しよう。中国の将来をめぐる欧米の専門家の予測は過去30年間、外れっ放しだ。

 彼らはこう予言した。中国の経済成長は過大視されており、この国には大変な危機が迫っている。中国政府による規制は消え去る運命にあり、インターネットをはじめとするグローバルメディアの登場で共産党政権は崩壊する──。

 大間違いの予測ばかりが飛び出すのはなぜか。専門家が欧米型モデルと欧米世界の歴史に基づいて中国を解釈しようとし続けているせいだ。中国を欧米型国家の卵としてではなく、独自の流儀と歴史を持つ国家として捉えた上で理解に努めない限り、今後も誤解が連続するだろう。

 米検索エンジン最大手グーグルが検閲やサイバー攻撃を理由に中国からの撤退を示唆している問題は、今の中国とこれからの中国を象徴する事例といえる。

 インターネットは思想や情報の自由な交換という文化の精髄であり、政府による制約を受けず、その利用は世界に広がっている。これが欧米の考え方だ。だが中国政府は、ネットの検閲や規制は可能だと証明している。

ネットの在り方も変わる

「世界中の情報を整理して誰もが使えるものにする」というグーグルの理念は、「規制は不可欠であり義務である」とする中国指導部の長年の方針と対立してきた。この衝突で勝利を収めるのは中国政府のほうだ。

 グーグルの選択肢は中国政府の規制を受け入れるか、世界最大のインターネット市場から撤退するかのどちらか。そのどちらを選んでも、世界を視野に入れた同社の長期戦略は大きな影響を受ける。

 情報の自由化や開放といった問題においても、中国政府を相手にしたら、アメリカで最も活力のある企業でさえ負けを見る。これこそ、現代という時代の構図だ。

 それだけではない。経済や政治の分野で中国の重要度が増すなか、中国でインターネットに起きたことはネットの在り方そのものにとって大きな意味を持つ。

 自由で開放されたインターネットというグーグル型モデル、すなわちアメリカ的未来観の典型が世界に普及しないことはもはやはっきりしている。中国では今後もインターネットの検閲が続き、情報の取捨選択や特定サイトの閲覧禁止が行われ、政府の方針に従わない検索エンジンは排除され、微妙な問題に関わるキーワードの検索が許されないはずだ。「中国がやるならわれわれも」という国も既に出始めている。

 インターネットは統合された1つの巨大なグローバル空間ではなく、国ごとに異なる在り方をする断片化した存在になるだろう。それ故に、未来をめぐる欧米の常識は世界標準になり得ない。自由な情報の流れが途絶えるわけではないが(検閲にもかかわらず、インターネットが中国の一般市民の手に入る情報の量と質を変えたのは事実だ)、今後の世界では欧米的方法ではなく中国的手法で情報が流通することになりそうだ。

 来るべき世界の形を理解するには、初歩的事実に立ち戻る必要がある。中国が世界1位の経済大国になるのは今や時間の問題だ。いずれは経済規模でアメリカをはるかにしのぐ国になるだろう。

 中国の「超大国化」というプロセスは、国際社会のパワーバランスを中国寄りに大きく傾ける。世界的企業になるための条件はアメリカ市場の掌握から中国市場でのシェア獲得に変わるが、中国の人口がアメリカの約4倍であることを考えれば、その意味するところはさらに大きい。

 経済的影響力が増しているおかげで、国際社会における中国政府の影響力も急速に拡大している。政府がグーグルとの対決で勝利を確信できるのはそのためだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン交戦は国連憲章違反、学校攻撃にも深い衝撃=独

ワールド

トルコ、イランの弾道ミサイル迎撃 NATO防空シス

ビジネス

米2月ISM非製造業指数、56.1に上昇 3年半ぶ

ワールド

米潜水艦がイラン軍艦を魚雷で撃沈、87人死亡 スリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 7
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 8
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中