最新記事

ネット

中国との戦いに勝ち目はない

2010年2月23日(火)15時38分
マーチン・ジャクス(ジャーナリスト)

 中国は欧米と根本的に異なる国で、欧米のように行動することも思考することもない。この事実と向き合うのはいかに困難か。その証拠に、欧米は中国政府の強さと耐久性を見誤ってばかりいる。

文明を国家単位とする国

 中国の共産党政権はその崩壊を唱える予測を何度も覆し、今もあらゆる面で国民の生活を支配する。国内大手企業の大半を所有し続け、グローバル化するアメリカのメディアがもたらす影響に対処する上でも、驚くべき老練ぶりで効果的な対策を見いだしている。

 中国政府が管理を徹底するのは体制崩壊をもくろむ者たちがいるという強迫観念のせいだと、欧米の専門家やジャーナリストは言いがちだ。だがこの国の政府が中国社会で大きな役割を担っている現実には、より深い理由がある。

 欧米の場合と対照的に、中国の国民にとって政府は権力の縮小を求めるべき異質の存在ではなく、社会の守護者を体現する存在。いわば一家の長だ。だからこそ中国では、政府は大きな正統性を持つと見なされる。

 なぜそうなのか。理由は中国の歴史にある。この国は本質的に国民国家ではなく、文明を国家の単位とする「文明国家」だ。しかも少なくとも2000年前からそうした国であり続けている。中国文明の統一の維持こそ、最重要の政治的課題かつ政府の神聖な務めとされ、結果として中国政府は欧米ではあり得ない役割を担う。

 中国の現代化の歩みは欧米とは別種であり、中国が主導する世界も現在の世界とは別種のものになる。果たしてどんな世界になるのかは、途上国に起きた変化が片鱗を示している。昨今の途上国では「大きな政府」が復活し、貿易と資本取引の自由化で貧困解消を目指す米政府主導の経済改革政策への支持は減る一方だ。

 新しい世界では、中国流の考え方──儒教的価値観や中国ならではの政府観や家族観──が大きな影響力を持つだろう。グーグルの敗北は来るべき世界の前触れだ。

 中国が支配する世界の本質を見極めるのは早いほどいい。その姿を理解してこそ、より良い対処の仕方が分かるのだから。

(筆者は著書に『中国が世界を支配するとき──西洋世界の終焉と新グローバル秩序の誕生(When China Rules the World: The End of the Western World and the Birth of a New Global Order)』がある)

[2010年1月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米成長率予想1.8%に上振れ、物価高止まりで雇用の

ワールド

マダガスカル、クーデターで大統領が出国

ワールド

トランプ氏、ガザ戦争終結を宣言 人質と拘束者解放

ワールド

マクロン氏、早期辞任改めて否定 政治混乱もたらした
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中