最新記事

宇宙開発

無限の闇にロマンを求めて

2009年12月25日(金)11時30分
ジェレミー・マッカーター

 一部のSFファンから評価されたテレビシリーズ『バトルスター・ギャラクティカ』は、絶滅を免れた人類の逃亡劇という設定を使って文民政府と軍との緊張関係やクローン技術などの題材を掘り下げた。だが登場人物の人間関係にはそれほど引き付けるものがなく、セットもカナダの特撮スタジオの域を抜け出せなかった。

iPodに勝る喜びもある

『スター・ウォーズ』の前編3部作はとりわけ目に余る。面白い点といえば、監督・総指揮のジョージ・ルーカスが自分の作品のメッセージを完全に無視し、ストーリーや登場人物といった人間的な要素より魂のないテクノロジーを優先させて「暗黒面」に落ちていく姿を見ることくらいだろう。

 例外はテレビシリーズ『ファイヤーフライ 宇宙大戦争』とその映画版『セレニティー』だ。『特攻野郎Aチーム』ばりの個性的なキャラクターが宇宙を舞台に繰り広げるウエスタン活劇といった趣で笑って楽しめた。つかの間でも宇宙の旅に思いをはせ、そのためにもっと税金を払ってもいいと思った最近のメジャーなSF作品はこれだけだ。

 といっても、SF映画はあくまで目的のための手段の1つ。目的はさまざまな方法で実現できるし、実現しなければならない。アメリカ人は、科学そのものに胸を躍らせることや、創意にあふれた技術革新がどんどん小さくなるiPodにも勝る喜びを与えてくれることを思い出す必要がある。

 その点、リチャード・ホームズは著書『驚異の時代(The Age of Wonder)』で科学に対するより健全なアプローチ法を示した。18世紀後半から19世紀前半のイギリスでは、科学者と芸術家が驚異的な絆を結んだ。ホームズが主要人物として挙げているのが、音楽家兼天文学者だったウィリアム・ハーシェルだ。彼は当時、世界最高の性能を誇る望遠鏡を製作。天王星を発見し、宇宙と時間にまつわる古い概念を覆した。

 サミュエル・コールリッジやパーシー・シェリーなどロマン派の詩人は、想像の世界を押し広げるこうした発見に触発された。ジョン・キーツは1816年、ハーシェルの天文学上の偉業を偉大なる文学、そして太平洋の発見に結び付け、「新たな惑星が視界へ泳いできたときの/天空の観察者のごとき感動」とうたい上げた。

現代に必要なロマン主義

 ロマン主義の時代にあって現代によみがえらせるべきもの──それはホームズの言葉を借りれば「往々にして孤独で、危険を伴う冒険」への憧憬だ。ロマン主義の英雄像は探検家のジェームズ・クックやタヒチへ航海した博物学者のジョゼフ・バンクスだけでなく、自分の記憶の世界に踏み込んでいく詩人や命懸けで自分を実験台にする化学者にも当てはまる。それは過去50年でいうなら、宇宙飛行士をおいてほかにいない。

『ロケット・メン』に描かれた月への有人飛行計画には、図らずもロマン主義の時代に重なる部分が多い。アポロ11号の乗組員マイケル・コリンズはニール・アームストロング船長とエドウィン・オルドリン飛行士が月面に人類初の足跡を残す間、司令船で軌道上を周回した。冒険家で作家のチャールズ・リンドバーグはミッションから帰還したコリンズに、「あなたはある意味、仲間よりはるかに深淵な体験をした」と語ったという。「人がかつて経験したことのない孤独を味わったのだから」

 初期の宇宙飛行士たちが地球に帰還した後のケアに当たった看護師によれば、「(彼らは)まるで宇宙の謎に恋をしたようだった」という。ロマン主義の時代の科学者や詩人たちを思わせる言葉だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米エヌビディア、サウジ政府系ファンドのAI新興企業

ワールド

WHO、飢餓による子ども発育影響懸念 ガザ、物資搬

ビジネス

米4月CPI2.3%上昇、約4年ぶりの低い伸び 利

ワールド

中国、14日から米製品への関税10%に引き下げ 9
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」にネット騒然
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 6
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 7
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 8
    トランプは勝ったつもりでいるが...米ウ鉱物資源協定…
  • 9
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中