最新記事

地球温暖化

コペンハーゲン会議を殺した5人

ポスト京都議定書をつぶした指導者たちの罪状を読み解く

2009年11月19日(木)19時07分
クリスティーナ・ラーソン、アニー・ラウリー

世界のお荷物 環境派をアピールしてきたオバマ米大統領も「戦犯」の1人だ Jim Young-Reuters

 温室効果ガス排出削減に向けた国際的な枠組みについて話し合う国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は12月7日、デンマークのコペンハーゲンで開幕する。

 だが11月15日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)のためにシンガポールに集まった各国首脳は、COP15ではあくまで次のステップについての「政治合意」を目指すことで一致。国別の削減目標と費用負担という肝心の具体策は先送りされ、「ポスト京都議定書」の採択という世界の希望は打ち砕かれた。

 こんな事態を招いた「犯人」は誰だ?

(1)バラク・オバマ米大統領

 温暖化問題をめぐる国際交渉でアメリカは主導的役割を果たすと公約していたオバマ。だがこの1年間を振り返ると、温暖化問題はオバマの優先課題ではなくなっていた。

 ゴードン・ブラウン英首相ら多くのヨーロッパ首脳がCOP15に出席する意向を明らかにし、二酸化炭素(CO2)削減義務の目標値も打ち出しているのに、オバマは態度を保留したまま。9月に同じコペンハーゲンで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会には出席したくせに......。

 オバマ曰く、自分の出席が合意に向けた決め手になるのなら、コペンハーゲンに行ってもいいとのこと。だが皮肉なことに、交渉の足を引っ張っているのは彼自身だ。

 この春オバマは、排出量削減のためのキャップ・アンド・トレード方式を盛り込んだ温暖化対策法案が米議会で可決されない限り、拘束力のある国際的な削減目標は受け入れられないと示唆した。国際合意と国内法の間に齟齬があってはならない、つまり先に国内法が出来上がっていなくてはならないというわけだ。

 だが上院での審議が遅れたせいで、アメリカを含む世界各国が削減目標で合意する可能性は消えた。またオバマの態度がはっきりしないことで、世界は他の2大排出国、中国とインドにも圧力がかけられなくなった。

 
(2)温家宝・中国首相

 中国の政治家のなかでは国際的に人気の高い温家宝(ウエン・チアパオ)だが、こと温暖化問題では世界をがっかりさせている。

 たしかにこの数年、中国は大方の予想を上回る踏み込んだ対策を打ち出してきた。温暖化の影響について研究を行うとともに、エネルギーの効率化や再生可能エネルギーの利用も推進している。

 だが一方で、これまで大気中に蓄積されてきたCO2のほとんどは先進国が排出したものだから、より大幅な排出削減を行うとともに、途上国の温暖化対策の費用も負担すべきだ、という原則に固執している。

 ある中国要人は最近、『先進国は率先して、その持続可能でない生産や生活様式を改めるべきだ』と発言した。ことあるごとに西側を指弾するこうした姿勢に、米議会は「中国に削減の意思なし」という疑念を募らせ、キャップ・アンド・トレード方式を導入する法案にもますます反対する。

(3)ハリー・リード米上院民主党院内総務

 09年1月、リードはCOP15までに上院で温暖化対策法案を通過させると公約した。だが今になっても法案は委員会で可決されただけで、年内の成立は不可能だ。ちなみに下院ではすでに6月、ナンシー・ペロシ議長のもとで法案は可決されている。

 上院での審議の遅れは温室効果ガスの排出削減に向けた世界の努力の足を引っ張っている。リードも知ってのとおり、アメリカにおける温暖化対策法案の成立はCOP15における交渉の進展にとって必要不可欠な条件だった。

 リードは医療保険改革法案に時間を取られたと言い訳しているが、それはペロシ下院議長も同じだったはずだ。

(4)ジャイラム・ラメシュ・インド環境相

 2007年に国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した報告書によれば、インドのヒマラヤ山脈の氷河は地球上のあらゆる氷河より急速に後退しており、35年までに消滅する可能性があるという。

 インドは長年、排出削減目標の設定に抵抗してきた。11月に入り同国の環境省は「気候変動は氷河の後退の原因ではない」とする内容の報告書も出している。IPCCの報告書の裏には政治的思惑があるとでも言いたげだ。

 ラメシュに言わせれば、IPCCの報告書は「西側の科学者たちが作ったもの」。同報告書の総括執筆責任者のなかにインド人が名を連ねていることをどうもご存じないようだ。

 ラメシュは地球で温暖化が起きていることは認めており、インドほど温暖化の影響を受けやすい国はないとも主張している。同国の沿岸部は洪水の被害に遭いやすく、農業生産はモンスーンに依存しているからだ。

 それでも彼は、拘束力のある排出削減目標を受け入れようとはせず、先進国こそもっと努力すべきだと主張している。7月にインドを訪れたヒラリー・クリントン米国務長官に対してもかたくなな対応を崩さなかった。

(5)トム・ドノヒュー米国商工会議所会頭

 コペンハーゲン会議を殺した者の大半は、死ぬという結果はわかっていても計画殺人ではない「故殺罪」だろう。だがドノヒューはそれこそ「謀殺罪」に値するかもしれない。彼と商工会議所は、実際に殺すための行動を起こしたのだから。

 米議会で温暖化対策法案の審議が遅れ、国際的な合意が不可能になった大きな責任は、米産業界と企業にある。1150以上の企業や団体が雇った温暖化対策関連のロビイストの数は推定2810人にのぼると、ワシントンの調査報道センターは分析する。議員1人に対し5人のロビイストがいる計算だ。

 なかでも商工会議所は、キャップ・アンド・トレード方式を導入する法案に反対するロビー活動の中心だった。地球を救うためにアメリカが支払わされる経済的代償が大き過ぎる、と彼らは主張した。法案の上院通過阻止を目指すニセ市民団体「エネルギー市民」の支援もしていた。

 だがドノヒューは一体、誰の代弁をしているつもりだろう。気候変動への懸念が高まるにつれ、アップルやリーバイ・ストラウスなどそうそうたる会員企業が商工会議所の妨害工作に抗議して続々と脱退し始めているというのに。


Reprinted with permission from www.ForeignPolicy.com 11/2009. ©2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中