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中東

トルコにも見放されたイスラエル

2009年10月15日(木)17時11分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

 なぜこうした事態になったのか、落ち着いて考えてみよう。トルコとの良好な関係はイスラエルにとって大きな財産であり、両国の強固な絆はアメリカにとってもプラス材料だ。アメリカもトルコもイスラエルもNATO諸国も、合同軍事演習の恩恵を被ってきた。

 なのに、イスラエルがガザとヨルダン川西岸を占領し、パレスチナ人国家の建設を認めないために、ハマスの抵抗が続き、イスラエルの町にロケット弾が打ち込まれる。

 イスラエルの指導者が圧倒的な軍事力こそ抵抗を抑え込む唯一の方法だと信じていることが、昨年末のガザ攻撃を引き起こし、1000人以上のパレスチナ人の命を奪った。そして、それがトルコ(や諸外国)の世論に火をつけ、重要な戦略的関係を危機にさらしている。

「のけ者」イスラエルの価値は下がるいっぽう

 イスラエル擁護派は、イスラエルの存在こそアメリカにとって重要な戦略的財産だと主張するが、中東で「のけ者」にされている事実によって、その価値は著しく損なわれている。イスラエルが1991年と2003年のイラク戦争に参戦できなかったのは、そのためだ。アラブ諸国がイラン問題に関してイスラエルと共通の危機意識をもっているにもかかわらず、イスラエルやアメリカとおおっぴらに協力できないのも、そのためだ。

 イスラエルが中東で受け入れられない最大の原因が占領行為であることは間違いない。パレスチナ紛争が解決し、イスラエルとアラブ世界が良好な関係を築いていれば、アメリカはイスラエル支援がもたらす外交的な代償を支払わずにすむし、イスラエルはアメリカや近隣諸国と協力して共通の課題に取り組める。

 占領をやめれば、トルコとの関係も改善する。つまり、占領はアメリカにとってもイスラエルにとっても「不良債権」なのだ。

「二国家共存はイスラエルの利益であり、パレスチナの利益であり、アメリカの利益であり、世界の利益である」というバラク・オバマ米大統領の言葉は真実を突いていた。ただし残念なことに、オバマはそのゴールにまったく近づいていない。

 一方、アメリカの力をテコにして二国家共存を探る試みに反対し続けている人々も、愛するアメリカとイスラエルの足を自らが引っ張っていることに気づいていない。


Reprinted with permission from Stephen M Walt's blog , 15/10/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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