最新記事

アフリカ

コンゴという幻想国家と縁を切れ

政府間交渉でこの崩壊国家を救えるという勘違いが、コンゴの悲劇を長引かせてきた

2009年8月20日(木)18時17分
ジェフリー・ハーブスト(国際政治学者)、グレゴリー・ミルズ(アフリカ政治学者)

交渉相手が違う? コンゴを訪問したクリントンはカビラ大統領に治安対策の強化を要請した(写真は8月11日、非政府組織との会合で) Reuters

 ヒラリー・クリントン米国務長官が8月中旬、アフリカ中部のコンゴ民主共和国を訪問した。

 筆者が外交専門誌フォーリン・ポリシーのウェブサイトに「コンゴは存在しない」と題した論文を寄稿したのは今年3月。今こそ、私たちがそこで投げかけた疑問を再考すべき絶好のタイミングだ。それは、広大な土地と豊富な鉱物資源をもち、戦争に引き裂かれたコンゴという国が、そもそも本当に存在するのかという問題だ。

 論文の中で、私たちはコンゴ人による主権国家は存在しないと主張した。国際社会は、首都キンシャサの中央政府がコンゴ民主共和国を統治しているというまやかしを信じるふりを止めるべきだ。そして、コンゴ各地で実際に権力を握っている勢力と協働する現実路線にシフトすべきだ。コンゴのかかえる問題はあまりに深刻で、張りぼての中央政府を介している猶予はない。

 論文の発表から数カ月、コンゴ情勢を見守る多くの人々から反響が寄せられた。賛否両論あったが、もしクリントンが論文を読んでいたとしたら、彼女は私たちの主張に否定的な立場のようだ。
 
 クリントンはコンゴのジョゼフ・カビラ大統領と会談し、国民の安全を守る対策を強化するよう要請した。東部での性暴力を撲滅するため1700万ドルの支援も約束した。アメリカは少なくとも、コンゴ政府というものが実在し、交渉の窓口となれると相変わらず信じている。

 コンゴが悲惨な状態にあることを否定する人はいないだろう。NGO(非政府組織)の「コンゴの友人」でアドバイザーを務めるアリ・M・マラウは、アフリカ関連のニュースサイト「オールアフリカ・ドットコム」でこう論じた。「今のコンゴの崩壊は前例がないレベルに達している。そうした現実を認めない議論は、知性を疑うほかない」

 ヘント大学(ベルギー)の研究組織コンフリクト・リサーチ・グループのティモシー・レイマイカーズも、「コンゴの政治体制の移行を熱烈に支持する人でさえ、紛争からの復興はひどい失敗続きだと考えている」と書いた

外国に責任をなすりつけるな

 コンゴの悲惨な現状に異論がないのだとすれば、「中央政府に解決を委ねる」という半世紀に渡った姿勢を、世界が今後も継続すべきか否かの疑問も浮かぶはずだ。40年以上も失敗を重ねてきたのに、あとどれだけ同じ悲劇を繰り返せば気がすむのか。

 私たちの主張に対して特にコンゴ人から多く寄せられる反論は、「責任は外国人にある」というものだ。例えば、マラウはこう書いている。「コンゴの現状は、西洋諸国による直接的で計算高い長年の操作の産物だ。彼らはアフリカの中心に位置する広大で鉱物資源に恵まれた国を弱小のまま留め、コンゴの資源を体系的に略奪したいと考えている」

 コンゴのランバルト・メンデ・オマランガ通信相も、国外在住のコンゴ人に人気が高いフランス語サイトで、現実路線を求めたわれわれの主張を「略奪を合法化したいハゲタカ」の仕業だと論じた。

 とはいえ、彼らが怒りの矛先を向ける外国人が、現在のカビラ政権を支えているのは間違いない。諸外国は見返りがほとんどないにもかかわらず、コンゴへの支援と投資を続けている。国際社会は、1965年から30年以上続いたモブツ独裁政権に対しても長年支援を続けていた。

 国際社会による平和維持活動も、十分に機能していない。背景には、中央政府への支援がうまくいかないのと同じ理由がある。国家が弱体化していると、外国が介入しても往々にして失敗する。基盤となる政府が存在しなければ、外部が主導して和平を築くのは不可能なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 実弾射撃

ビジネス

中国製リチウム電池需要、来年初めに失速へ 乗用車協

ビジネス

加州高速鉄道計画、補助金なしで続行へ 政権への訴訟

ワールド

コソボ議会選、与党勝利 クルティ首相「迅速な新政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中