最新記事

文学

ガールズ小説、アジアに上陸

恋や仕事に悩む等身大のヒロインを描く新しいジャンルが花開く

2009年8月10日(月)12時55分
ソニア・コレスニコフジェソップ(シンガポール支局)

 意中の彼が、ついに婚約指輪をプレゼントしてくれた! 恋に夢中のグレースには、彼が外国に転勤することも、彼の写真に脚の長いブロンド女が登場することも気にならない。彼に内緒でシンガポールまで会いにいった彼女は突然、夢の結婚と子供のいる平穏な生活を激しく求めるようになり......。

 都会で働くおしゃれなヒロインが、恋を追い求め、何度も訪れる危機を乗り越えていく。タラ・セリングの小説『アメージング・グレース』は、「チック・リット」(若い女性をターゲットにした小説)の要素をすべて持っている。

 ただし、従来と違う特徴も1つある。この小説はアジアの作家がアジアの読者向けに書いた作品。主人公は中国系フィリピン人だ。

 英米生まれのチック・リットは、ここ10年間に大ブームを巻き起こした。初期の代表作はヘレン・フィールディングの『ブリジット・ジョーンズの日記』とキャンディス・ブシュネルの『セックスとニューヨーク』(『セックス・アンド・ザ・シティ』の原作)。どちらも何百万部も売れ、数十カ国語に翻訳され、ドラマや映画になり、ヒロインは憧れの的になった。

 最近もソフィー・キンセラの『レベッカのお買いもの日記』シリーズやローレン・ワイズバーガーの『プラダを着た悪魔』が世界中のファンを魅了している。こうした作品に刺激を受けて、南米や東欧、インドでも同ジャンルの作品が登場するようになった。

 でも、アジアの作家は腰が重かった。衛慧の『上海ベイビー』やアユ・ウタミの『サマン』など、アジアでも多くの女流作家が恋愛やセックスを題材にしてきたが、こうした小説特有の軽いノリやユーモアが欠けていた。

基本と地元文化の両立

「欧米のチック・リットは憧れや恋愛がテーマ。中国の女性向け小説は、アイデンティティーの問題や社会的・歴史的な背景を意識した作品が多い」と、香港の著作権エージェント会社クリエーティブワークのマリシア・ユーシチャキェビチは言う。

 この市場の隙間を狙っているのが、世界的な販売網を持つシンガポールの出版社マーシャル・キャベンディッシュだ。同社は08年11月、『アジアン・チック』と銘打ったシリーズ小説3作品を出版。シンガポールとマレーシアでそれぞれ約2000部を売り上げた。どちらも仕事と家族、恋愛の両立を図る小粋なヒロインの物語だ。

 5月には、結婚してよかったのかどうかを悩む大富豪の娘を描いたケシェラ・ヤングの『ラブ・オブ・ハー・ライフ』を出版。さらに2作品の出版を予定している。同社がシンガポールで開催した小説コンクールには60作以上の応募があり、今後はマレーシアでも同様のコンクールを行う計画だ。

「このジャンルは、この15年間の世界の出版業界で最も成功した分野の1つ。アジアでも人気が高い。だから、ぜひアジア版を作りたかった」と、同社のクリス・ニューソンは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁設立が大幅遅延

ワールド

韓鶴子総裁の逮捕状請求、韓国特別検察 前大統領巡る

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

首都圏マンション、8月発売戸数78%増 価格2カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中