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ディズニーの魔法が消えた日

2013年12月13日(金)12時40分
トレイシー・ハリントン・マッコイ

「悲劇の王国」の体験談

 それで不都合のない人もいるだろうが、心理的な障害があって「待つこと」が苦手な人たちは困る。「待ち時間が長いと、パニックやかんしゃくといった望ましくない行動が出てしまう」と、自閉症の息子ニコラス(8)を持つサム・ローは言う。

 自閉症のタイラー・プレスリー(12)も、パニックを起こさずに行列で待つのは苦手だ。タイラーの母ステイシーは、新たなプログラムが導入された後に息子をディズニーランドに連れて行ってみたが、やはりうまくいかなかったと言う。

「息子がいら立って自分の腕をたたき、大きな音を立てたりすると、よその母親たちが離れた場所に子供を連れていった。まるで息子が感染症患者みたいに。みんなが私たちのほうを指さして笑い、息子にひどい言葉を浴びせた。これが世界で一番幸せな場所なの? 『魔法の国』の魔法はどこに行ったの?」

 彼女をはじめ多くの親たちが、障害者優先プログラムの変更についてディズニーに苦情を申し立てた。「電話やメール、支援団体を通してのメールで抗議したが、まったく耳を傾けてもらえなかった」と、彼女は言う。
 
 脊椎損傷で下半身不随の娘ベラ(13)を持つレオナルド・テレンツィは、「悲劇の国」と題したブログを開設した。「パーク内でのさまざまな家族の経験を記録できるようにしている。開設したばかりだが、既に100件近い体験談が寄せられた。その大部分が悪い体験談だ」

あの優しさをもう一度

 自閉症支援団体や障害者支援団体も声を上げている。「問題なのは、一日を通して行列の先頭に誘導される選択肢が、障害者でない人にも用意されていることだ」と言うのは、自閉症患者を法律面から支援する団体エリザベス・バートセンターの理事長で弁護士のティム・アダムズ。1時間315〜380ドルのVIPツアーなら行列待ちは一切なし。「VIPツアーの料金が払えない障害者たちにとってひどく不利になった」

 障害のある子を持つ家族の権利擁護のために戦う組織マクレーン・アドボカシーのキム・マクレーン理事長は、ディズニーに再考を求める嘆願書に3万5000以上の署名を集めた。彼女はディズニーに何度も電話しているが、「何の返事もない」と言う。
 
 ちなみに本誌がディズニーの広報担当に問い合わせたところ、「そんな苦情は初めて聞いた。私たちに届いているのは新システムを歓迎する声ばかりだ」との答えが返ってきた。

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