最新記事

米大統領選

ロムニー、国民の47%を「たかり」呼ばわり

国民の半数を納税もせず政府に依存するだけの寄生虫扱いした共和党大統領候補の大失態

2012年9月19日(水)17時44分
エリオット・スピッツァー(元ニューヨーク州知事)

また墓穴 誰より「節税」しているのはロムニー自身 Jim Young-Reuters

 近頃のアメリカ政治に関する話題は、2つの数字を中心に回っている。

 1つは、昨年のウォール街占拠デモで有名になった「99%」。高所得や大幅な税控除を享受している超富裕層1%に対して、そうした恩恵にあずかることのできない国民の大部分を指す数字だ。

 そして今、大論争になっているのが、共和党の大統領候補ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事の口から発せられた「47%」だ。ロムニーは5月にフロリダ州で開かれた資金集めのイベント(非公開)で、「米国民の47%が連邦所得税を払っておらず、政府に依存するのが当然だと思っている層だ」と語っていたことが、今週になって判明。国民の半数を見下した発言だとして、物議を醸している。

 アメリカは99%が成長の恩恵から取り残された国なのか、それとも47%が税金も払わず行政サービスにただ乗りしている国なのか、どちらに共感するか有権者の反応を探れば、11月の大統領選の結果もおのずと見えてくるだろう。

 低所得者層は見返りにふさわしいだけの納税をしていないという「作り話」は、共和党が好んで使うレトリックだ。そしてその話を裏付ける数字として、彼らはよく「47%」を引き合いに出す。

 確かに連邦所得税に限って言えば47%という数字は間違いではない。しかし、そこでは源泉徴収された給与税、消費税や物品税など、さまざまな形で税を納めている人たちは排除されている。

所得と税負担はほぼ比例している

 ここでアメリカ国民がどのように納税しているかを分析するために、米税務政策センターと課税・経済政策研究所のデータを簡単に見ていこう。

 まず、国民の28.3%は給与税という形で税金を払っており、その税収は社会保障やメディケア(高齢者医療保険制度)に回されている。

 高齢になり仕事を引退したため連邦所得税を払っていないのは、10.3%。彼らが受け取っている社会保障費に税金はかからない。ロムニーは知らないのかもしれないが、共和党支持者の多い層だ。

 こうして差し引いていくと結局、現役世代なのに所得税を払っていない人々は6.9%しかいないことになる。47%とはえらい違いだ。アメリカは、ロムニーが考えているような「たかり屋の国」ではない。

 さらに重要なことがある。私たちの税負担の割合はどうなっているか。共和党が主張するように、貧しい人々は本当に応分の税負担をしていないのか。

 さまざまな要素を考慮に入れて所得別に見てみると、どの所得層でも所得と税負担額はだいたい比例している。

 国民を所得順に並べたときに中間の20%の人々が払っている税負担は、国の税収の10.3%。そしてこの層の所得額は、国民所得全体の11.4%強だ。

 下位20%の納税額は全体の2.1%だが、得ている収入も3.4%。ウォール街で悪名高い上位1%の納税額は全体の21.6%だが、その所得も全体の21%に上っている。

 この国の税制と社会保障制度は、ロムニーたちが騒ぎ立てるように狂ったシステムではない。アメリカは決して物乞いの国でもなければ詐欺師の国でもない。

 ロムニーはもう政府の社会保障制度を馬鹿にしたり、その恩恵を受けている人々を非難するのはやめるべきだ。ちなみにロムニーの所得税率は13.9%。お仲間の上位1%の高所得者に適用される所得税率をはるかに下回る数字だ。金持ちは損をしてるなんて盗人猛々しい。

© 2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、シリア暫定大統領と会談 関係正常化

ワールド

自動車など関税維持との米大統領発言、「承知もコメン

ワールド

ロシア、交渉団メンバー明らかにせず 「プーチン氏の

ビジネス

中国新規銀行融資、4月は予想以上の急減 貿易戦争で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 6
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新…
  • 7
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 8
    iPhone泥棒から届いた「Apple風SMS」...見抜いた被害…
  • 9
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 10
    「奇妙すぎる」「何のため?」ミステリーサークルに…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 5
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 8
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 9
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 10
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中