最新記事

アフガニスタン

コーラン焼却事件が招いたアメリカへの憎悪の炎

軽率な行為はアフガニスタン国民の怒りを買い、両国の協調関係を破壊し、米兵をさらなる危険にさらす

2012年4月6日(金)16時09分
サミ・ユサフザイ、
ロン・モロー(イスラマバード支局長)

泥沼 コーラン焼却に抗議する人々。一カ月後の3月下旬には米兵が乱射事件を起こす Parwiz-Reuters

 アフガニスタンの惨劇が止まらない。バグラム米空軍基地でイスラム教の聖典コーランが焼却された先月以降、米軍や外国軍を狙った報復行為が相次いでいる。激しい反米デモが1週間続いて事態は収束するかに見えたが、2月27日には同国東部ジャララバードのNATO軍基地が併設された空港で、車を使った自爆攻撃が発生した。

 保守的な途上国で、イスラムの教えが厳格に守られているアフガニスタンのような国では、神を冒とくするのは最も怒りを買う行為だ。今回のコーラン焼却事件にも国民は激高し、反米デモの最中に約30人のアフガニスタン人が死亡。4人の米兵が至近距離から射殺される事件も起きた。ジャララバードで起きた自爆テロでは9人が死亡し、NATO軍兵士4人を含めた19人が負傷。アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが、「米軍がコーランを冒とくした報復だ」という声明を発表した。

 こうした犠牲者以外に、コーラン焼却はさらに大きなものにダメージを与えた。アメリカとアフガニスタンのパートナーシップそのものだ。コーランが焼き捨てられたというニュースが報じられると直ちにタリバンは国民に奮起を促し、兵士や警察官にアメリカや同盟国の駐留兵を攻撃するよう呼び掛けた。

 それに触発されたのかどうか、米兵に対する攻撃が相次いだ。27日に起きた自爆テロ現場から程近いアフガニスタン東部では、1人のアフガニスタン兵が米兵2人を射殺。25日には首都カブールの厳重に警備された内務省の中で、米兵2人がデスクに座ったまま後頭部を撃たれて死亡した。26日には北部にある米軍基地に手榴弾が投げ込まれ、教官7人が負傷した。

報復への協力望む一般人

 タリバンや過激な宗教指導者は、コーラン焼却を受けて国民の間に噴き出した反米感情を喜んでいる。1月にも、タリバン兵士とみられる遺体に米兵が放尿するショッキングな映像がネット上に流出。アフガニスタンの文化や宗教が冒とくされていると、人々の怒りを買ったばかりだ。タリバンのある幹部は匿名を条件にこう語った。「こうした事件が起きるたびに、一般の人々が、報復に協力したいがどうすればいいかと私たちの元を訪ねてくる」

 アフガニスタン政府高官は、アメリカとの協調関係に亀裂が入ったことに動揺を隠せない様子だ。「たくさんの犠牲者を出した米軍と、アメリカの税金に私たちは助けられてきた。なのにこうした事件のせいで、これまで築かれてきたアメリカの好印象が台無しになる」

 その痛手は米兵一人一人の身にも跳ね返ってくる。米軍は14年末までにアフガニスタンから段階的に撤退していくが、駐留を続ける米兵は、自らが訓練してきたアフガニスタン兵に今まで以上に頼ることになる。アメリカの支援は最小限にして、自ら国内の武装勢力に立ち向かえるようアフガニスタンの治安部隊を指導する新たな任務も始まった。しかし、治安部隊に配備される米軍の顧問や教官が少なくなれば、反米感情を抱いたアフガニスタン兵から攻撃を受けやすくなるかもしれない。

 これは看過できない大問題だ。コーラン焼却事件が起こる前からアメリカとNATOは、外国人の顧問とアフガニスタン兵の間に生じる文化的、個人的な敵対意識を危惧してきた。アフガニスタン兵が欧米同盟国の人間に発砲する事件が頻発しているのは、両者の緊張関係が高まっている表れだ。
 
 壊れた信頼関係を修復するのは、タリバンを攻撃するより難しいかもしれない。

[2012年3月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米CDC提出予定文書が架空研究引用か、反ワクチン派

ビジネス

ブラックロック、本社がテキサス州の企業に投資するE

ワールド

IMF、2025年のベトナム成長率は5.4%に減速

ワールド

中国経済は高成長維持へ、消費主導モデルへの移行を支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 4
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 9
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 10
    イスラエル・イラン紛争はロシアの影響力凋落の第一…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中