最新記事

空港検査

「モロ見えスキャナー」が目指す次なる進化

「全裸撮影」か係官の「お触り」か、究極の選択に激怒した米世論にスキャンメーカーが出した答えは

2010年11月25日(木)17時32分
アニー・ラウリー

世界の流れ 全身透視スキャナーの使い方を実演する係官(ドイツのハンブルク空港で Christian Charisius-Reuters

 各地の空港で導入が進んでいる全身を透視するX線検査装置(全身透視スキャナー)をめぐり、アメリカでは議論が沸騰している。

 批判的な人々は全身透視スキャナーのことを「性器映像化装置」などと呼んでいる。この手の装置を通してピーター・カントの体の凹凸をつぶさに見た時、私はまさにぴったりの呼び名だと思った。

 ピーター・カントは全身透視スキャナーのメーカーであるラピスキャン社の上級副社長。私たちはワシントン近郊のバージニア州アーリントンにある同社のオフィスの1室にいた。全米70の空港で使われている「ラピスキャン・セキュア1000」という全身透視スキャナーの実演のためだ。

 大きな青い箱型の装置が2つ、黄色い足型のついたゴムマットをはさんで置かれている。カントはためらうことなくマットの上に飛び乗り、両手を頭の上に挙げた。

 10秒かそこらでスクリーンに画像が映し出された。ゆったりしたスーツの上からは分からないが、カントの腹にベルトが食い込んでいる様子がしっかり映っている。

 画像は写真とは異なり、乳首が見えるほど高精細ではなかった。だが陰部の形ははっきり見えた。ここまで体を張っているカントに会社から「特別手当」が出ていることを祈るのみだ。

 カントによれば、空港では専用ソフトウエアが怪しい物を検知しない限り、画像はほんの数秒しか表示されない。セキュア1000には画像を保存する機能もない。

 とはいえ空港のセキュリティーチェックに対する世間の反発は、搭乗客の体が映像化されることにも及んでいる。これはラピスキャンにとっては頭の痛い問題だ。最近では、ノンポリもヒッピーも自由主義者も、政治的に右のメディアも左のメディアも、みんなが空港のセキュリティーチェックに批判の声を上げている。

スキャナーメーカーの業績は好調

 感謝祭の旅行シーズンを迎えて盛り上がる世間の反発に対し、ラピスキャンは2本立ての理論で反論している。

 まず第一に、自社はあくまでも検査装置のメーカーに過ぎないとラピスキャンは主張している。納入先がそれをどう使うかには口を出していないし、スキャナーの利用を拒んだ搭乗客に対して、米運輸保安局(TSA)の係官が手で身体の微妙な部分にまでタッチする身体検査を行なうと決めたこととも何ら関係ないというわけだ。

 2つ目は、ラピスキャンは今後さらに進化したスキャナーを作ろうとしているということ。セキュリティーチェックをめぐる空港利用者の負担軽減に向けて努力している点を、同社は必死で世間に伝えようとしている。

 最近の空港のセキュリティーチェックに対する世間の反発を別にすれば、ラピスキャンは「わが世の春」を謳歌している。セキュリティー関連企業にとってテロと戦争はビジネスチャンスだからだ。

 ちなみにラピスキャンは手荷物や貨物、郵便物、輸送用コンテナ用のスキャナーも製造しており、対人検査用のスキャナーは同社の事業の中でそれほど大きな割合を占めてはいない。

 それでも人間用スキャナーのビジネスは拡大しており、1年前に同社はセキュア1000の納入契約(総額1億7300万ドル)をTSAと結んだ。来年末までに全米各地の空港に1000ユニットを納入する予定だ。

 ラピスキャンの親会社であるOSIシステムズ社の株で資金運用している投資家たちも、メディアの全身透視スキャナー叩きに動じる様子はほとんどない。同社の株価は最近、少し下がった後再び上昇に転じた。

 一部のメディアや評論家は、OSIのCEO(最高経営責任者)がバラク・オバマ米大統領のアジア歴訪に同行したことや、マイケル・チャートフ前国土安全保障長官がかつて、同社の利益に沿った発言をした点を取り上げ、同社のロビー活動や政府とのつながりを問題視している。

 ただしOSIは、自社が不適切な活動を行なったというまともな指摘はどこにもないと強く主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領「独立守った」、ロ侵攻から4年 G

ワールド

米、重要鉱物価格設定にAI活用検討 国防総省開発

ビジネス

AIが雇用市場を完全に覆すことはない=ウォラーFR

ワールド

ウクライナ、ロシアの「核取得」非難を否定 英仏関与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 6
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 7
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 8
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 9
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 10
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中