最新記事

ネット

歴史家が垂涎するツイッター

米連邦議会図書館の「つぶやき」保存は宝の山になり得る

2010年5月28日(金)13時25分
ジュリア・ベアード(社会問題担当)

 4月14日、米連邦議会図書館がツイッターに投稿されたツイート(つぶやき)を、サービスが開始された06年にまでさかのぼってすべて保存すると発表した。

 この方針に抗議の声が上がって分かったことがある。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に関して世間では今も2つの神話が信じられている──書き込みは私的なもので公のものではない、書き込みの内容はどうでもいいことばかり。

 SNSとの関わりはアルコール依存症に陥るようなものだ。最初は恐る恐る近づくが、ひとたび友達やフォロワーを見つけると熱心に書き込みを始め、やがて抑制を失ってリスクを冒すようになる。

 例えば先日、オーストラリアの医学生がテレビでバラク・オバマ米大統領を見ながら人種差別的な内容をツイッターに書き込み、所属政党から除名された。彼はこうつぶやいた。「テレビで猿を見たけりゃ野生動物番組を見るね」

ビッグブラザーの台頭?

 彼が例外というわけではない。ネット上には人種差別的な悪意があふれている。腹立たしいことにその多くは匿名だ。しかし、そうした書き込みが社会の醜い一面を反映しているのは否定できない(ハンドルネームを隠れみのにしてサイトを荒らす連中は皆、臆病者だ。それは言論の自由ではない)。

 ツイッターは匿名とは限らないが、内緒にしたいことは書き込まなければいいだけの話。もしくは「非公開」設定にすればいい。連邦議会図書館のつぶやき保存方針を騒ぎ立てる人々は、この単純な論理を分かっていない。保存されるのは「公開」で投稿されたつぶやきだけ。なのにユーザーらは、ジョージ・オーウェルが『1984年』で描いたような「ビッグブラザー」が台頭する兆候だと非難する。

 くだらない書き込みの分析に金を掛けるなという声もある。だが歴史家たちにとって、つぶやきは「宝の山」になり得る。もしボストン茶会事件で決起した人々がつぶやいていたら、モーセが1日に1個戒律をつぶやいていたら、ベーブ・ルースがイニングの間につぶやいていたら......すごい資料になっていたはずだ。

 歴史家は長年、市井の人々の思いを探ろうとしてきた。多くの場合、記録を残すのを得意としたのはエリート層であり、一般の人々の声は残されていないからだ。

 ツイッターには200人の連邦議員を含め1億500万人がユーザー登録しており、1日に5500万のツイートが投稿される。宗教、人工妊娠中絶、政治、医療、メディアなどについて激しい議論が飛び交い、もちろんセレブやセックスに関する話も盛んだ。

 大して深くも考えず140字以内でちょろっと書いた内容の分析で、後世に何を伝えられるのか?それは私たちが愚かにもインターネットを信用し、プライベートを詳細にさらけ出しているという事実だろう。解放された気分になりながらも、なぜかどこかで保護されていると思い込み、最も下品な自分を他人と共有している姿だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン、欧州諸国の「破壊的アプローチ」巡りEUに警

ビジネス

英製薬アストラゼネカ、米国への上場移転を検討=英紙

ワールド

米EV推進団体、税額控除維持を下院に要請 上院の法

ビジネス

マネタリーベース6月は前年比3.5%減、10カ月連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中