最新記事

米政治 

オバマ中間選挙は「負けるが勝ち」

11月の議会選挙では共和党に負けたほうが重要法案を通しやすくなる

2010年3月26日(金)15時22分
エレノア・クリフト(本誌コラムニスト)

微妙な勝算 医療改革を実現しても、オバマ率いる民主党は中間選挙で苦戦を強いられそう Kevin Lamarque-Reuters

 マルコ・ルビオ元フロリダ州下院議長(共和党)は、草の根の保守派連合「ティーパーティー」の人気者。11月の連邦上院議員選挙に立候補しており、自ら「アメリカ史上最大の抵抗」と呼ぶ波に乗っている。1月にはマサチューセッツ州の上院議員補欠選挙で共和党のスコット・ブラウン候補が勝利するなど、反オバマ・反民主党の流れが加速しているのだ。

 先の補選が民主党の上院議員をパニックに陥れたことは間違いない。政府に対する国民の不満が高まっているのは、民主党議員が必要な行動を起こさなかったからだが、当の議員たちはそれを分かっていない。自分たちの党には訴えるべきメッセージがない、リーダーがいないと言っては、民主党上院のトップであるハリー・リード院内総務やバラク・オバマ大統領に怒りの矛先を向ける。

 上院民主党はイラク戦争を支持して失敗した。開戦の根拠を疑いながらも国家安全保障について弱腰だと共和党に非難されることを恐れた。そして今、医療保険制度改革についても同じ過ちを繰り返している。オバマを社会主義者呼ばわりする共和党やティーパーティーにびくつき、法案可決への一貫した行動が取れていない。

 ティーパーティーは従来の保守派の大衆運動とそう変わらない。CNNの世論調査によれば、ティーパーティーの参加者は地方在住の高所得の男性で、超保守派が多い。92年の大統領選に独立系候補として出馬したロス・ペローの支持者層をより過激にした感じだ。

 ビル・クリントンが93年、アメリカを不況から救い出すべく政府の改革者として大統領になったとき、今のオバマが直面しているのと同じような反発を受けた。

 任期1年目のオバマには、善行は言わなくても伝わると思っていた節がある。そこに批判派が付け込んだ。彼の内政課題の2本柱である7870億ドルの景気対策と医療保険制度改革を、「大きな政府」による経済的価値のない介入と位置付けた。事実はそうではない。激しい党派間対立がある状況では、事実を積極的に売り込み、政治的なデマに対抗する必要がある。

共和党が勝てば妥協も

 オバマが今、国内遊説などを通して自分の政策を積極的にアピールしていることや、財政赤字の削減に取り組む超党派の委員会を設けたことは評価できる。こうした努力は支持率が下がり始めた昨年の夏か初秋に行うべきだった。

 民主党は11月の中間選挙で、下院議席の過半数を失った上に上院で5〜8議席を失う可能性がある。そうなれば共和党が大勝した94年の中間選挙の二の舞いになる。

 オバマは上院の医療保険制度改革法案で共和党議員から賛成票1票を得ようとして無駄な4カ月半を費やした。そんな暇があれば、ワシントンのアウトサイダーとしての自分を売り込んだり、大統領選で応援してくれた1300万人にメールを送るなどして、地元の議員に法案可決を働き掛けるよう頼んでおくべきだった。

 だが大統領選でオバマの選対本部長だったデービッド・プラフは、休暇を取って自身の金儲けに走った。党派対立は何とかなるというオバマの甘い考えを反映していた。

 大統領に就任してから現在までのオバマは、93〜94年のクリントンに非常によく似ている。大きな期待を集めて誕生した若き民主党大統領クリントンは、就任後間もなく支持率が低下し、保守派の反発とも戦わなければならなかった。

 オバマの顧問たちは絶対認めないだろうが、下院または両院の過半数を共和党に奪われたほうが、2党間で膠着状態が続くよりもオバマにとってはいいかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

銅に50%関税、トランプ氏が署名 8月1日発効

ビジネス

FRB金利据え置き、ウォラー・ボウマン両氏が反対

ワールド

トランプ氏、ブラジルに40%追加関税 合計50%に

ビジネス

米GDP、第2四半期3%増とプラス回復 国内需要は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中