最新記事

米政治

アジア外交より医療保険、オバマの決断

インドネシア、オーストラリアへの訪問を再延期したオバマは、医療保険制度改革法案の可決に全力をかける

2010年3月19日(金)16時45分
ジョシュ・ローギン

歓迎されざる客? オバマ訪問を2週間後に控え、ジャカルタの議事堂前では学生がオバマへの抗議デモを行なった(3月5日) Dadang Tri-Reuters

 3月21〜26日に予定されていたバラク・オバマ大統領のインドネシアとオーストラリア訪問が、またしても延期になった。両国への訪問は既に1度延期されているが、審議中の医療保険制度改革法案の行方が定まらないなか、今度は6月まで延期されることになった。

「今年は中間選挙が行われる年だ。医療保険制度改革法案の審議が大詰めを迎えようとしているなか、大統領に外国を訪問している余裕などない」と、新米安全保障研究センター(CNAS)・アジアプログラム責任者のパトリック・クローニンは言う。「今も国内政治が外交より重要視されていることがこれで良く分かる」

 インドネシア・オーストラリア歴訪は当初3月18日に出発予定だったが、今週末に医療保険制度改革法案が下院で採決されることを見込んで3日間延期

 しかし共和党が上下両院で妨害工作を行うことが予想されるなか、オバマは頭を抱えていた。調整が難航すれば大統領の権威が必要になるかもしれない。外国にいながらその存在感を示せるだろうか、と。

 オバマは議会民主党の指導部たちにも、アジア訪問の重要性を繰り返し強調してきた。特にインドネシア国民にとっては、オバマの訪問は最も重要で名誉なこと。オバマが幼少時代をインドネシアで過ごしたことを考えると、「里帰り」のような意味合いもある。訪問を延期すれば、アメリカのアジア政策に波及的な影響を及ぼしかねない。

「今回の延期は、アジア太平洋地域への関与にこだわり続けたオバマ政権の挫折を意味する」とクローニンは言う。「オバマ政権はこれまで、ブッシュ前政権がイラクに注視し過ぎたせいで、東アジアへの関与が著しく損なわれたと批判してきた。だからこそオバマは猛スピードで外国訪問をこなし、アジアでの存在感をアピールしてきた」

それでもインドネシア国民は許してくれる

「この数年間、いろいろな意味でアメリカはアジアから遠ざかっていた。現在は指導力を回復しようと努めている」と、3月15日に国家安全保障会議(NSC)の戦略広報担当副補佐官ベン・ローズは語った。ローズは今回のアジア訪問を、「世界で極めて重要なこの地域でアメリカの国益を前進させる重要な機会」と位置付けた。

 訪問延期は必ずしもマイナスではない。オバマ政権は、インドネシアとオーストラリア両国との重要な課題について検討する時間を持てるだろう。短い日程に議題を詰め込むよりも6月に延期することで余裕を持って協議できると、クローニンは指摘する。
 
 前世界銀行総裁で駐インドネシア米大使だったこともあるポール・ウォルフォウィッツによれば、83年にロナルド・レーガン元大統領がインドネシア訪問を延期したときには、訪問が実現するまでに3年かかった。遠くない将来に再訪問の調整ができる限り、インドネシア国民はオバマを許すだろうとウォルフォウィッツは語る。

「インドネシア国民が今回のオバマ訪問をどれだけ心待ちにしているかは、言葉では言い表せない」とウォルフォウィッツは言う。「オバマがインドネシアを訪問した瞬間、彼らは延期のことなどすべて忘れてしまうはずだ」

 ロバート・ギブス大統領報道官は18日、今回の訪問延期についてオバマは「残念に」思っており、訪問先の首脳に「医療保険制度は極めて重要な優先事項」だと伝えたと述べた

 ホワイトハウス側は数日間だけ延期するよう調整を試みたが、スケジュール的に不可能だった。ギブスによれば、「大統領は、いま自分がいるべき場所はワシントンで、法案採択を見届けるべきだと確信している」。


Reprinted with permission from "The Cable", 18/03/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:好調スタートの米年末商戦、水面下で消費揺

ワールド

トルコ、ロ・ウにエネインフラの安全確保要請 黒海で

ワールド

マクロン氏、中国主席と会談 地政学・貿易・環境で協

ワールド

トルコ、ロシア産ガス契約を1年延長 対米投資も検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中