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チェイニーがオバマと組むべき理由

オバマ批判を続けるチェイニー元副大統領をアドバイザーに迎え入れるべき6つの理由とは

2010年3月2日(火)18時14分
ダニエル・クレードマン(米国版副編集長)

昨日の敵は今日の味方? チェイニーこそオバマが大統領諮問委員会のメンバーにすべき政敵だ Reuters


ディックへ、

この国の最高司令官は、あなたを必要としている。国のために、アメリカ国民を守るために、そしてあなた自身の愛国心のために、大統領諮問委員会の一員として働いてくれるよう要請する。

アメリカ合衆国大統領 バラク・オバマ


 オバマ大統領は、ディック・チェイニー元副大統領に上のような手紙を送るべきだ。アメリカは2つの戦争を戦っており、本土はいまもテロの脅威にさらされている。ここはひとつ、結束して強さを顕示しなければならない。チェイニーを大統領諮問委員会(元々は外交諮問委員会だったが、「外交」は取られた)に迎え入れること以上に、「悪党ども」にアメリカの決意を見せつける方法はないだろう。

 知名度こそ低いが、大統領諮問委員会は大統領に率直なアドバイスを与える賢人の集まりで、歴史的にも大きな役割を果たしてきた。オバマにとって、チェイニーを委員会のメンバーに加えるメリットは明確だ。まず、辛辣な反オバマ勢力の筆頭格を取り込めるという利点がある。オバマをこき下ろす保守派の評論家からバッシングを受けるよりも、チェイニーを招き入れたほうがマシだろう。

 2月25日に行われた医療改革サミットで、オバマはいがみ合う二つの勢力の間で落とし所を見つけることに幸せを感じていることが再確認できた。大統領諮問委員会にチェイニーを参加させることで、アドバイザーたちが議論に火花を散らし、オバマはハーバード・ロー・レビュー誌の編集長時代に左派と過激な保守派を仲裁していた幸せな日々を思い出せるはずだ。

 チェイニーがそんな申し出に応じるだろうかと、疑問に思うかもしれない。チェイニーは、オバマ政権の政治的な飾り窓になるつもりは毛頭ないだろう。しかし、そうとも言い切れない。抜け目ないチェイニーがオバマの要請に応えるかもしれない6つの理由を挙げよう。

1) 優れた知略家なら、マイケル・コルレオーネ(映画『ゴッドファーザー』シリーズのマフィアのドン)の「友人は近くに、敵はさらに近くに置いておけ」という金言(孫子の言葉と間違われることが多い)に従うだろう。

2) かつて水責めの拷問を「当然だ」と言ってのけたチェイニーにとって、拷問手法が議論された諮問委員会は「お前らは厳しい現実を受け入れられない!」と声高に叫ぶにはもってこいの場だ。

3) チェイニー以上に、情報操作の危険性を知る者はいない。大統領諮問委員会で、機密情報や集団思考から都合のいい情報を選び抜くこと(誤った国への侵略や占領につながる可能性を生んでしまう)を阻止する「ひとり隊長」の役割が果たせる。

4) 確かに、チェイニーが委員会に加わることは保守派の会合でスター扱いを受ける今の立場を捨てることになる。来年の保守政治活動会議で娘のエリザベスのエスコート役になることも含めて、だ。その一方で、政権内でも最も機密性が高い情報に近づける立場を得るし、生の機密情報を際限なく得ることでエリザベスが2012年に大統領選に出馬するという人騒がせな話を加熱させることもできる。

5) 政権側に入ることは、保守的なフォックス・ニュースに登場して終末論的な破滅を警告したり、オバマ政権内の軟弱なメンバーを罵らないことを意味する。だが、チェイニーは諮問委員会で、彼の心の闇の部分を満足させるためにCIA(米中央情報局)の臆病な官僚たちへの捜査を実施する権限が持てる。

6) 諮問委員会とそのメンバーは秘密のベールに隠されている。これはチェイニーが好むやり方だ。情報公開法の対象にもならないし、煩わしい記者たちを避けることもできる。諮問委員会のメンバーは資産などを公表する義務がないため、チェイニーがハリバートン社に復帰することも可能だ。

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