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人類は火星でどんな「家」に住むのか?...「最大の難題」も克服、宇宙移住はすぐ目の前に?

THE GIANT LEAP

2025年5月14日(水)14時54分
サミュエル・マッキー(マンチェスター・メトロポリタン大学科学哲学助教)
スペースXの大型ロケット「スターシップ」

スペースXの大型ロケット「スターシップ」は火星移住計画で重要な役割を果たすことが期待されている COURTESY OF SPACE X

<火星移住など「絶対ムリ」という声もあるが、技術は猛烈なスピードで進歩している。酸素も家も放射線も心配の必要はない──>

人類は本格的に宇宙に進出して、火星に移り住むことができるのか。この火星移住というアイデアは、数十年前からたびたび話題になってきた。だが、そんなの妄想にすぎないとか、ひどければ大嘘だと批判する声も根強かった。

【写真】NASAの火星探査車が撮影した「火星の地表」にはゴツゴツとした突起が

実際、火星には地球と多くの共通点があるようにみえる。ただ、地表気圧が極めて低いため、人間が生きていくためには、人工的に気圧を高めた居住環境が必要だ。


それでも宇宙旅行が現実になった今、一風変わった富裕層やテクノユートピア論者(技術の力で理想郷を構築できると考える人たち)が、改めて火星に熱い視線を向けている。

ただ、科学の話題ではよくあることだが、火星移住に向けた技術の進歩と、一般の理解の間には大きなギャップが存在する。

個人的には、火星に住むというアイデアには一定の合理的根拠があり、その実現は一般に考えられているほど遠い先の話ではないと、筆者は考えている。それどころか、火星における人類の未来を楽観すべき理由がいくつかあると思う。

まず、火星は現実的に到達可能だ。太陽周回軌道で地球と火星の位置が最適になったときなら6〜8カ月で到達できる。最新のロケットエンジンなら、2カ月で可能ともいわれる。既存の技術でも、地球から火星までの旅は6カ月、そして火星から地球に帰ってくるのも6カ月程度だ。

この程度の期間なら、人間は既に国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した経験がある。一方、火星に探査機を着陸させることも既に安定して行われており、ロボットではなく人間ではできないと考えるべき技術的な理由は存在しない。

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NASAの火星探査車パーシビアランスが撮影した火星の地表 NASA/JPL-CALTECH/ASU/MSSS

第2に、火星には炭素や窒素、水素、そして酸素など、人間が一定の自給自足生活を送るのに必要な資源がある。そして人間には、火星の資源を利用して定住するための技術がある。火星の地表で二酸化炭素から酸素イオンを分離して、酸素を生成することにも既に成功している

火星移住を楽観すべき第3の理由は、有人火星探査の実現に役立つ新しい技術が続々と登場していることだ。カリフォルニア工科大学の研究チームが進める火星酸素現地資源利用実験(MOXIE)は、前述の火星での酸素生成に成功している

こうした技術がさらに進歩すれば、人間が自然呼吸できるレベルの大気をつくり出したり、酸素と水素を組み合わせて水を生成したりもできるだろう。そうなれば、これらの資源を地球から運び込む必要がなくなる。

また、火星で燃料を生成できるようになれば、将来の人間の居住施設は動力源としての電気や太陽光への依存度が下がるだろう。

3Dプリンターを駆使して

では、人間は火星でどのような「家」に住むのか。

宇宙建築家のメロディ・ヤシャー(Melodie Yashar)は、居住施設はもちろん探査機の着陸台など、火星での暮らしに必要なものを3Dプリンターで造る構想を練っている。こうすれば、人間がやって来る前に生活に必要なインフラを構築しておける可能性がある。

火星滞在が心身に与える影響の研究も進んでいる。イギリスの救急医ベス・ヒーリーは2015年、欧州宇宙機関(ESA)のミッションで、南極大陸の基地で9カ月間、宇宙での生活を模した孤立生活を送り、心身の変化を報告した。

それ以降も、洞窟や砂漠といった極限環境でシミュレーションが行われている。

アメリカの航空宇宙技術者ロバート・ズブリンは、1990年代に当時の最新技術を織り込んだ火星探査計画「マーズ・ダイレクト」を提唱した。だが、この中で使用されているロケットは、60〜70年代のアポロ計画(月への有人宇宙飛行計画)で使用された「サターンV」だ。

今ならイーロン・マスク率いるスペースXの主力ロケット「ファルコン9」と新型宇宙船「クルードラゴン」に置き換えられるだろう。

まずは何回かの打ち上げで、必要な機器を火星に運ぶ。これは無人で行われ、人間が到着したときに利用できる環境を整える。万が一のための帰りの宇宙船も用意しておくことができるだろう。

火星探査に参加する宇宙飛行士にとって最大の難題は、宇宙放射線への曝露だ。だがこれは、宇宙船の壁に特殊な材料を使用したり、船内にシェルターを構築して対策ができる。

3Dプリンターで設置される火星の滞在施設も、同様の対策を講じることができるだろう。滞在施設を地中や洞窟に設けることを考えてもいい。

火星の自転周期は地球の自転周期より41分長く、地球から助けを呼ぶといっても早くても数カ月は待たなくてはいけない。従って火星に滞在する、あるいは居住するには最初から地球に依存せず、自立して生活できなくてはならない。これは容易ではないが、克服できないものではないだろう。

なかでも、スペースXが開発した大型ロケット「スターシップ」は、状況を一変する可能性がある。

現在までの打ち上げ試験の結果は芳しくないものの、十分な信頼性が確保されて、人間を乗せることができるようなレベルになれば、月や火星でどのような探査ができるようになるか期待は膨らむばかりだ。

宇宙船の低コスト化と運搬能力の高まりは、これまでよりもはるかに効率的な火星の探査を可能にするだろう。また、火星に住むために必要な技術の多くが既に存在するか、開発プロセスの終盤にある。言うまでもなく、火星への旅を希望する宇宙飛行士は大勢いるはずだ。

The Conversation

Samuel McKee, Associate Tutor and PhD Candidate in Philosophy of Science, Manchester Metropolitan University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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