最新記事

DX

ベテランの「経験と勘」頼みは、もはやリスク...「職人ロボ」が製造業を変える

ARTISAN ROBOTS

2022年2月8日(火)11時30分
グレン・S・ディーン(オハイオ州立大学教授)
ロボット職人

ILLUSTRATION BY STUDIOSTOCKART/ISTOCK

<AIロボットが自ら必要な部品とその製造法を判断し、オーダーメイドで完璧な部品を素早く作る「自動製造」は、職人技頼みの世界をこう変える>

工場で機械が故障すると、操業がストップして大打撃を被りかねない。そこで、熟練の技術者がさまざまな道具を駆使して、できるだけ早く、正確に代わりの部品を作る。

しかし、この種の作業を担える専門技術者は減り続けている。それに、手作業という性格上、完成する部品の質は、技術者のスキルやその日の心理状態に左右される。

この2つの問題は、遠くない未来、人工知能(AI)を備えたロボットによって解決されるかもしれない。そうしたロボ職人は、人間を全く介すことなしに、さまざまな道具を使って部品を成形、切断、溶接したり、完成した部品を機械に届けたり、必要な材料を発注したりするようになると期待されている。これが「ハイブリッド自動製造」だ。

オハイオ州立大学で金属工学の教授をしている筆者は、多くの大学の研究者と共に、どうすればロボ職人を実用化できるかを模索してきた。

機械などの部品は、大量生産で作られる場合とオーダーメイドで作られる場合がある。これまでの歴史を通じて、自動化はもっぱら大量生産の領域で進められてきた。この目的で「付加製造」(いわゆる3Dプリンティング)の手法が用いられるケースも増えている。

医療現場への応用も期待大

一方、私たちは、オーダーメイドの製造を自動化するのに必要なツール群の開発に取り組んでいる。さまざまな部品を作る全過程を完全に自動的に行えるようにしようというのだ。プロセスを管理し、品質を確保するために、センサーも重要な役割を担う。

そのような自動製造システムにおいては、適切なサイズや強度を持った部品を作るために必要な無数の決定を自動的に行わなくてはならない。そこでAIの出番になる。

大量生産では有効な単一の方法論を見いだし、それにひたすら準拠するが、オーダーメイドの部品作りを自動化しようと思えば、いくつもの方法論の中からその都度適切なものを選ばなくてはならない。その際、適切な部品を作れる方法論を確実に選択するために、AIの力が必要とされるのだ。

大量生産システムほど速いペースで部品を生産することは、さすがにできない。それでも、ロボットは休みなく作業を続けられるので、人間の技術者よりは高い生産性を実現できるかもしれない。

骨折の手術では、骨を固定して治癒を促すために、さまざまな形状の金属プレートが必要になることが多い。ハイブリッド自動製造が実現すれば、病院の手術室やそのそばでプレートなどを作ることも可能になるだろう。

現状ではたいてい、医師が手術室でプレートを曲げて、一人一人の患者にフィットするように調整している。しかし、手作業は時間がかかるし、どうしても正確性を欠く。プレートの不適切な場所に力を加えれば、プレートが折れかねない。その点、ロボ職人なら手術の前にプレートを完成させることができる。

自動製造のテクノロジーは、かなり進展し始めている。ハイブリッド自動製造の実現に向けた次の課題は、「ハイブリッド化」だ。いくつものツールといくつもの方法により、いくつもの課題を成し遂げることを可能にしなくてはならない。

それでも、そのために必要な中核的要素は既にそろっている。10年後には、人間を全く介さない製造が当たり前になっているかもしれない。

dx2022_mook_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE「成功するDX 2022」が好評発売中。小売り、金融、製造......企業サバイバルの鍵を握るDXを各業界の最新事例から学ぶ。[巻頭インタビュー]石倉洋子(デジタル庁デジタル監)、石角友愛(パロアルトインサイトCEO)

The Conversation

Glenn S. Daehn, Professor of Materials Science and Engineering, The Ohio State University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、総裁「正しい方向」 6月利下

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ワールド

ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではな

ワールド

英世論調査、労働党リード拡大 地方選惨敗の与党に3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 6

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中