最新記事

ここまで来た AI医療

癌の早期発見で、医療AIが専門医に勝てる理由

AI DIAGNOSIS BREAKTHROUGH

2018年11月14日(水)16時00分
カシュミラ・ガンダー

悪性黒色腫の診断では人間の皮膚科医より頼りになりそう? DAMIANGRETKA/ISTOCKPHOTO

<「CNN」を使って実験したところ、皮膚科医より正確に皮膚癌を識別できた。誤診や「手遅れ」のない病院づくりも夢ではないかもしれない>



※この記事は、11月20日号(11月13日売り)「ここまで来た AI医療」特集より。長い待ち時間や誤診、莫大なコストといった、病院や診療に付きまとう問題を飛躍的に解消する「切り札」としての人工知能に注目が集まっている。患者を救い、医療費は激減。医療の未来はもうここまで来ている。

適切な診断や早期発見が難しく、毎年多くの人が命を落とす病は今も少なくない。例えば、皮膚癌の一種である悪性黒色腫。早期発見できれば治療可能な病気だが、手遅れになるまで見つからない場合が多い。

しかし遠くない将来、人工知能(AI)がこの状況を変えるかもしれない。今年5月に医学誌「腫瘍学年報」に発表された研究によると、AIに画像診断をさせると、皮膚科医より正確に皮膚癌を識別できたという。具体的には、癌が疑われる部位の写真を読み取り、AIに診断させた。

この研究でコンピューターに画像診断をマスターさせるためのディープラーニング(深層学習)で使用したのが、「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」と呼ばれる情報処理システムだ。CNNは、子供の脳のように視覚的情報を処理して学習する。

研究チームは10万点以上の良性と悪性の腫瘍、ほくろの画像を診断結果とセットでCNNに与えて学習させた。「画像を1点与えるごとに、良性と悪性を見分ける能力が高まっていった」と、リーダーであるハイデルベルク大学(ドイツ)のホルガー・ヘンスル教授は述べている。

こうして学習させたCNNを使って実験したところ、皮膚癌の見落としは皮膚科医より少なかった。良性を悪性と「誤診」する割合もCNNのほうが少なかった(実験には、17カ国の58人の皮膚科医が参加した)。

皮膚科医が悪性黒色腫を正しく識別できた割合は86.6%だったが、CNNの場合はこの割合が95%に達した。ただし研究チームも認めているように、患者の年齢や性別、患部などの情報が分からないために、皮膚科医が実力を発揮できなかった可能性は排除できない。また、鮮明な画像を撮りにくい部位(手指や足指、頭皮など)でもCNNが同様の精度で診断できるのかは、さらなる研究が必要だ。

AIの活用が期待を集めている病はほかにもある。心臓疾患では、イギリスの心臓血管医ポール・リーソンが開発したAIシステム「ウルトラミクス」の臨床試験が行われている。

このシステムは医師が見落としやすい小さなサインを察知し、より速く正確な診断を下せると期待されており、これまでのデータでは診断の「正解」率が人間の医師を上回っているという。臨床試験で正式に実力が証明されれば、医療現場への導入に向けた動きが加速しそうだ。

こうした技術が発達していけば、誤診や「手遅れ」のない病院づくりも夢ではないかもしれない。

【参考記事】医療診断の試験で、AIが人間に圧勝した
【参考記事】医療のブロックチェーン革命で、ここまで出来るようになる

<2018年11月20日号掲載>

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中