最新記事

ここまで来た AI医療

医療のブロックチェーン革命で、ここまで出来るようになる

US health care companies begin exploring blockchain technologies

2018年11月15日(木)12時05分
アナ・サントス・ラッチマン(セントルイス大学助教〔法学〕)

LEOWOLFERT/ISTOCKPHOTO

<医師や病院、薬局の情報共有が不十分でハッキングの危険とも隣り合わせの現状を変えられるか。患者データの保管以外のメリットとは>



※この記事は、11月20日号(11月13日売り)「ここまで来た AI医療」特集より。長い待ち時間や誤診、莫大なコストといった、病院や診療に付きまとう問題を飛躍的に解消する「切り札」としての人工知能に注目が集まっている。患者を救い、医療費は激減。医療の未来はもうここまで来ている。

医療業界は、患者のデータを効率的に活用できているとはお世辞にも言えない。医師や病院、クリニック、薬局、保険会社などが集める膨大な量のデータは、それぞれのコンピューターの中に──そしておそらくは、書類棚のファイルの中にも──ばらばらに保管されている。

患者に処方される薬が変わったり、新たにレントゲンが撮られたりしても、全てのデータが更新されるわけではない。医師や病院、薬局などの間でデータが共有されないからだ。

例えば、アメリカのボストンでは、医療機関で用いられている電子カルテシステムの種類が20を軽く超える。使っているシステムが違えば、医療機関の間で直接の情報共有ができない。しかも、これらのシステムは、ハッカーの侵入を受けて情報が盗み出されたり、消去・改変されたりする危険と隣り合わせだ。

救急医療の現場では、医師が患者の命に関わるデータを把握できないケースも少なくない。それが原因で患者の安全が脅かされる危険もある。

しかし、新しいテクノロジーを活用すれば、この状況を変えられる可能性がある。患者に関する最新の正確なデータを安全に保管して、ハッカーの手が届かないようにし、しかも医療関係者同士がデータを共有できるようにするシステムを構築できるかもしれない。

それを可能にするのがブロックチェーンだ。ビットコインなどの仮想通貨でも用いられているテクノロジーである。ブロックチェーンは、分散して置かれたデータベースのネットワークのこと。それらのデータベースを暗号化したメッセージをインターネット上でやりとりし、1つのネットワークを形づくる。

ブロックチェーン上に記録されているデータは消去できないが、正当な権限のあるユーザーなら更新できる。誰がどのような更新をしたかは、全て記録に残る仕組みになっている。

患者が自分のデータを管理

この技術を医療分野に応用すれば、患者の膨大な量のデータを安全に保管することが可能になる。データ入力の際にミスがあっても、誤りを簡単に見つけ出して修正できる。

それだけではない。患者も自分の医療データに目を通し、必要に応じて更新できるようになる。自らの症状を記録することも可能だ。

ブロックチェーンは、ほかの面でも医療の役に立てる可能性がある。米疾病対策センター(CDC)はこの技術を土台に、感染症に関するデータを共有するためのシステムを開発しようとしている。

新薬の臨床試験のプロセスもブロックチェーンの恩恵を受けられるかもしれない。現状では、臨床試験に関わる当事者間のデータ共有が不十分なために、数々の弊害が生まれている。

医療へのブロックチェーンの活用で一歩先を行くのがヨーロッパだ。EUは2016年、EU全域で医療関係の機関と患者個人がデータを共有するためのブロックチェーン・システムをつくる取り組みへの資金拠出を始めた。このシステムが完成すれば、オンライン上に個々の患者ごとの医療データが安全に保管され、パソコンやモバイル端末でアクセスできるようになる。

スウェーデンでは最近、ブロックチェーンを用いた医療データプラットフォーム「ケアチェーン」の運用が始まった。「誰にも管理されず、みんなが管理できる」というのがうたい文句だ。企業や個人は、ここにさまざまなデータを記録できる。個人の医療データにアクセスし、健康管理のためのアドバイスや商品を提案するアプリやサービスも開発できるようになっている。

医療分野でブロックチェーンが活用される未来を知りたければ、エストニアを見ればいい(本誌30ページ記事参照)。2012年以降、ブロックチェーン技術を用いて医療データを記録しているエストニアでは、全ての医療データの95%が電子化されている。電子化率は、医療費請求では100%、処方箋では99%に達する。

近い将来、世界中の国々でこのようなシステムが導入される日がやって来るのかもしれない。

【参考記事】医療診断の試験で、AIが人間に圧勝した
【参考記事】癌の早期発見で、医療AIが専門医に勝てる理由

<2018年11月20日号掲載>

The Conversation

Ana Santos Rutschman, Assistant Professor of Law, Saint Louis University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニュース速報

ワールド

新型肺炎拡大リスク、世界で「非常に高い」に引き上げ

ビジネス

米個人消費、1月は0.2%増へ鈍化 所得は0.6%

ワールド

サウジなどOPEC主要国、さらなる減産拡大を検討=

ビジネス

ECB、新型ウイルスで直ちに行動せず 必要なら臨時

MAGAZINE

特集:AI時代の英語学習

2020-3・ 3号(2/26発売)

自動翻訳はどこまで実用的か? AI翻訳・通訳を使いこなす英語力とは

人気ランキング

  • 1

    世界経済を狂わせる新型コロナウイルスの脅威──最大の影響を受けるのは日本

  • 2

    遂に「日本売り」を招いた新型肺炎危機──危機を作り出したのはウイルスでも政府でもなくメディアと「専門家」

  • 3

    新型コロナウイルス最大の脅威は中国政府の隠蔽工作

  • 4

    新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(2…

  • 5

    新型ウイルスは段ボール、プラスチックの表面で2時間…

  • 6

    徹底したウイルス対策実施のシンガポール 他国が真…

  • 7

    新型コロナウイルス、感染ショックの後に日本を襲う4…

  • 8

    香港、ペットの犬が新型ウイルス検査で「弱い陽性」 …

  • 9

    新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、…

  • 10

    新型コロナウイルスをめぐる日本国内の最新状況まと…

  • 1

    「部外者」には分かりにくい、日本の見えないマナー違反

  • 2

    遂に「日本売り」を招いた新型肺炎危機──危機を作り出したのはウイルスでも政府でもなくメディアと「専門家」

  • 3

    マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける

  • 4

    感染者2200万人・死者1万人以上 アメリカ、爆発的「イ…

  • 5

    new-style(新型)coronavirus, stay reki(渡航歴)…

  • 6

    アメリカから帰国した私が日本の大手航空会社の新型…

  • 7

    中国人女性と日本人の初老男性はホテルの客室階に消…

  • 8

    国民の命は二の次か? 武漢パンデミックを後追いす…

  • 9

    新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、…

  • 10

    「送料無料」でも楽天はアマゾンに勝てない あえて…

  • 1

    「歯肉から毛が生えた」という女性の症例が世界で初めて報告される

  • 2

    一党支配揺るがすか? 「武漢市長の会見」に中国庶民の怒り沸騰

  • 3

    ヒヒにさらわれ子どもにされた子ライオンの悲劇

  • 4

    マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける

  • 5

    新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、…

  • 6

    夜間に発電できる「反ソーラーパネル」が考案される

  • 7

    「部外者」には分かりにくい、日本の見えないマナー…

  • 8

    「武漢はこの世の終末」 チャーター機乗れなかった米…

  • 9

    BTSと共演した韓国人気子役がYouTubeで炎上 虐待さ…

  • 10

    文在寅を見限った金正恩......「新型コロナ」でも問…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月
  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月