最新記事

環境

厄介者の外来種が温暖化と戦うヒーローになる場合・ならない場合

Blue Carbon Ecosystem

2018年10月23日(火)11時00分
ハナ・オズボーン

沿岸部のマングローブや塩性湿地は、大気に放出されるはずの炭素をため込でくれる DAMOCEAN/ISTOCKPHOTO

<海洋生物が蓄積する炭素「ブルーカーボン」は、外来種が生態系に侵入することで急増することもある。となれば......>

もともと生息していなかった地域に人為的に入り込んで定着する「外来種」は、生態系のバランスを崩す厄介者と見なされがち。だが外来種の植物の中には、気候変動との戦いに役立つものもある。カギは、彼らの蓄積する「ブルーカーボン」だ。

ブルーカーボンとは、海洋に生息する海藻などの生物が吸収・捕捉する炭素のこと。外来種の中には「生態系エンジニア」として働き、在来種より大きく急激に成長することで、生態系の炭素貯蔵能力を押し上げるものがあることが最新の研究で分かった。ある生態系では、バイオマス(動植物から生まれた再利用可能な有機性の資源)と炭素貯蔵能力が117%増加したケースもある。

炭素貯蔵に関する研究は、森林など陸上の環境に注目したものが多い。だが最近は、マングローブや塩性湿地のような沿岸環境の炭素貯蔵能力が、気候変動対策に果たす役割で急速に関心を集めつつある。

こうした海洋生態系は森林に比べて約40倍の速さで炭素を貯蔵する能力を秘めている。一方で、面積にして推定7700平方キロが毎年、姿を消しつつある。

炭素貯蔵システムを理解することは重要だ。さまざまな生態系でどのくらいの炭素が吸収されているかを把握することは、温室効果ガスに地球がどこまで順応できるかを、正確に予測することにつながる。

科学専門誌グローバル・チェンジ・バイオロジーに掲載された最新研究では、104の研究をメタ分析。外来種の侵入があった場合とない場合の生態系を比較し、植物由来のバイオマスの量と炭素貯蔵能力を判定した。

研究結果によれば、外来種の動物がいた場合、バイオマスはほぼ半減していた。「外来種の動物は基本的にバイオマスを餌にし、踏みにじり、破壊する」と、研究を率いたスミソニアン海洋研究センターのイアン・デビッドソンは言う。

しかし植物となると話は別だ。外来種が在来種と大きく異なる場合(海草の多い環境に藻類が侵入するなど)、バイオマスは約3分の1に減少する。だが外来種が在来種と似た種類の場合、バイオマスは著しく増加する。

「元来『生態系エンジニア』であるこうした外来種が生態系に侵入すると、彼らはより積極的かつ効率的に生息環境をつくりあげる」と、デビッドソンは言う。在来種と比べても速く、大きく成長し、ブルーカーボンの貯蔵能力も急増するという。

研究者たちは、海洋環境にあえて外来種を持ち込むべきだと言っているわけではない。外来種対策と、炭素貯蔵と生態系のバランスを取るための戦略に、今回の研究成果が活用できるというのが彼らの主張だ。

確かにバランスがうまく働けば、侵入者の外来種が環境の救世主になるかもしれない。

[2018年10月23日号掲載]

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾で空襲訓練、中国ミサイル攻撃を想定 台北など一

ワールド

中国、フェンタニル密売人に近く死刑判決も=トランプ

ビジネス

ABB、第2四半期の受注が過去最高、AIデータセン

ビジネス

クシュタール、セブン&アイへの買収提案撤回 「真摯
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中