最新記事

テクノロジー

軍用ドローンで世界はどうなる 〈無人化〉時代の倫理に向けて

2018年10月10日(水)18時15分
渡名喜 庸哲

クルド独立派武装勢力PKKの女性兵士が敵を偵察してきたドローンの着陸を待ち構えている。今や紛争地帯でドローンが行き交うのは日常的な光景となりつつある。 Asmaa Waguih-REUTERS


2010年以降、急速に普及し始めた小型無人飛行機─ドローン。従来の物理的な制約に縛られない能力は、"空の産業革命"とも呼ばれるが、一方でドローンは我われの目に触れないところで、テロリストを監視し、遠く離れた紛争地帯で敵を抹殺する最強の兵器としても使われている。 こういうドローンという多義的な存在をフランスの気鋭哲学者グレゴワール・シャマユーが倫理、哲学の視点から論じたのが「ドローンの哲学――遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争」(明石書店)。訳者の渡名喜 庸哲氏の解説から、ドローンを巡る倫理問題をさぐる。

「ドローンの時代がやってくる」。そんな声をいたるところで耳にするようになった。けれどもそれはどんな時代だろうか。

内閣府の運営する「政府広報オンライン」は、「ソサイエティ5.0」というタイトルで、今後到来すると予想される社会を描いたショートフィルムを流している。「20XX年」の「ちょっと先の日常」は、ドローンが荷物を運び、顔認証センサーで受取人を認識し配達してくれる朝に始まる。自宅では、話しかけるだけでレシピを提案してくれたり要望に応えてくれる「AI家電」があり、「遠隔診療」で遠くからでも医師の問診を受けることができる。外に出ればGPS衛星によって制御された「無人トラクター」による「スマート農業」が展開され、無人走行バスが目的地まで送り届けてくれる......そんな「未来」だ。

なかでもドローンは、私たちの生活を一変させる新たなビジネスチャンスとして、いまや世界的な研究・開発の注目の的となっている。すでに日本では1980年代からとりわけ農薬散布の分野で産業用無人ヘリコプターが用いられてきたが、2010年代からは飛躍的な発展を見せている。無人で飛行する物体は昔からあるが、かつてのラジコンと異なり、ドローンはたんに無人であるだけでなく「自律」するようになってきた。GPS、携帯電話等々の関連する技術改良のおかげで、軽量化・実用化がいっそう進んでいる。

すでに農業分野でのデータ収集、空撮による河川や天然ガスパイプラインなどのインフラ管理・点検、災害時の調査・測量・警備などで実用化がなされ、今後は配送を含めたさまざまな分野での応用が期待されている。国際的にも、大学などの研究機関や企業と協同しながら、各国は鎬を削ってそこに投資している。こうした趨勢からすると、内閣府の提示する未来予想図もあながち絵空事ではないかもしれない。
他方で、ドローンによる「未来」は、薄暗い側面も見せているだろう。アニメ『PSYCHO‐PASS』が描きだすように、空中を浮遊するドローンのカメラは、どこにでも移動できる監視カメラとして人々の行動を追跡するかもしれない。そればかりではない。収集された膨大なデータは、あれこれのアルゴリズムを介して「犯人」を突き止めることもできるようになるだろう。

もしこの高解像度の移動型監視カメラが武器をもてば......技術的には、「データ」に基づく刑執行も可能になるだろうし、相互接続された端末からその信号を送ることもできるようになるかもしれない。すでに、アフガニスタンでは無人飛行機による標的殺害が実施されているが、そうした「未来」の一部は確かにすでに世界の一部で「現実」となっていると言うことすらできるかもしれない。

もちろん、空想的に描かれるディストピアの像を根拠にして、いまここにある技術を断罪しても説得力はないだろう。けれども、不安に目をつむり、技術の進歩とそれを操作する人間の健全なる理性をあくまで信じることも、さほど合理的には思えない。一つの技術が民生技術として産業利用されることと軍事技術として利用されることの差異がますます不明瞭になり、しかも技術を操作するのがはたして人間なのかも分かりにくくなってゆく時代において、このような期待しうると同時に悩ましい技術をどのように考えたらよいだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ブリヂストン、今期純利益見通しは3.9%増の340

ワールド

米銀行規制当局、大手行向け新「バーゼル」規制案に前

ワールド

米、小型原子炉を貨物機で初めて輸送 原子力の迅速展

ビジネス

ディズニー、バイトダンスに停止通告書 AI生成動画
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したスーツドレスの「開放的すぎる」着こなしとは?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 9
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 10
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中