最新記事

AI新局面

「AIが人間の仕事を奪う」は嘘だった

2018年2月14日(水)20時27分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラムニスト)

magSR180214-chart.png

オービタルは「オルタナティブ・データ」と呼ばれるデータを扱う急成長分野の多くの企業の1つ。市場調査会社タブ・グループによると、オルタナティブ・データ市場は16年に約2億ドル規模だったが、20年には2倍以上になると予測されている。

オルタナティブ・データは、政府統計や株価、企業の会計報告、消費者のクレジットカード使用履歴といった通常のデータとは違う。例えば携帯電話のシグナル、産業機器に搭載されているIoT(モノのインターネット)センサー、オンライン動画、ツイート、ソーシャルメディア、そして人工衛星の画像データなどだ。

未処理の生データが大量蓄積

こうした多分野にわたるデータをつなぎ合わせると、見えにくいトレンドが浮かび上がってくる。これを可能にするのがAIだ。オルタナティブ・データ業界にAIは必須だが、同時に人間の存在も必須だ。AIは人間の雇用を奪うという意見があるが、急成長しているこの業界を見れば、AIが誰も想像しなかったような規模の雇用を生み出せることが分かる。

AIは運転手や会計士、ファストフードの店員、工場労働者などの職を奪い、この世にはITを得意とするごく一部の金持ちと、政府が支給する生活費で食いつなぐ人間しかいなくなると、AIに懐疑的な人たちは言う。

実際、17年7月のオンラインビジネス誌クォーツによる読者1600人の調査では、回答者の90%が「今ある仕事の半分は自動化され、5年以内に消滅する」という予測に同意した。ただし失われるのは自分ではなく他人の職だと、91%が都合よく考えていた。

未来はそんなに暗くないという見方も増えている。減る仕事もあるが増える仕事のほうが多いということだ。例えば調査会社ガートナーによると、AIのせいで20年末までに180万人が失業する一方、230万の雇用が創出される。差し引き50万の雇用増だ。

コンサルティング会社キャップジェミニも、AI導入企業の83%で新規雇用ができたとしている。別のコンサル会社デロイトによるイギリスでの調査では、自動化によって低レベルの雇用80万が失われた一方、新規の雇用が350万も生まれ、しかも新規分の平均年収は1万3000ドルも高かった。

そうは言っても、AIの脅威のほうが見えやすい。自動運転のトラックが走りだせばトラック運転手は路頭に迷うだろう。既にAI型チャットボットは顧客サービスに一役買っている。デロイトは17年、10年以内に法務の分野で39%の業務が自動化されるとの調査結果も発表している。なるほど弁護士事務所の補助職や秘書職が憂き目を見ることは想像に難くない。

一方、プログラミングやチップ設計の能力を持たない人たちに、一体どんな雇用が用意されるのかを想像するのは難しい。だからこそ、オルタナティブ・データの活用から生まれつつある業界に注目すべきだ。


170220cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版2月14日発売号(2018年2月20日号)は「AI新局面」特集。人類から仕事を奪うと恐れられてきた人工知能が創り出す新たな可能性と、それでも残る「暴走」の恐怖を取り上げた。この記事は特集からの抜粋。記事の完全版は本誌をお買い求めください>

【参考記事】AIが性差別・人種差別をするのはなぜか? どう防ぐか?

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日続伸、900円超高 ハイテク株に買い

ワールド

柏崎刈羽原発6・7号機、再稼働なら新潟県に4396

ビジネス

午後3時のドルは一時154.89円まで上昇、34年

ワールド

印インフレにリスク、極端な気象現象と地政学的緊張で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中