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経済成長

「成長神話」の終わり...GDPの3つの限界、その指標は時代遅れか?

THE COST OF GDP OBSESSION

2025年7月2日(水)16時13分
カウシク・バス(コーネル大学教授)

だが、その限界も無視できなくなってきた。時間の経過とともにGDPはそれ自体が目的化し、政治家は根深い社会的・経済的分断から目をそらす道具として経済成長率を利用するようになった。国連のグテレス事務総長は21年に発表した報告書『私たちの共通の課題』で、より広範な進歩の指標に目を向けるよう訴えた。

経済指標としてのGDPには3つの主要な弱点がある。第1に、国の総所得のみに焦点を当てているため、実際には格差が拡大しても幅広い層が豊かになったかのような錯覚を起こしかねない。

たとえ大半の国民が生活苦に陥っていても、1人当たりGDPは向上する場合がある。ノーベル賞経済学者のジョセフ・スティグリッツが10年の著書『フリーフォール──グローバル経済はどこまで落ちるのか』(邦訳・徳間書店)で指摘したように、「パイが大きくなっても、全員あるいは大半の人々の取り分が増えるわけではない」のだ。


第2に、GDP至上主義はしばしば民主主義を脅かす行動を助長する。超富裕層が所有しているのは車や豪邸、飛行機、ヨットだけではない。特にSNSとAI(人工知能)の時代には、極端な富は人々の考え方に過大な影響を及ぼす力の源泉となる。

富が少数に集中し、ひと握りのオンライン・プラットフォームが数十億人の受け取る情報を左右する状況の下、多くの人々は民主主義の最も基本的な要素である「自分たちの声」を失いつつある。

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