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清涼飲料水が「大腸がんの転移」を加速させる可能性...新たな代謝経路が関与か?【最新研究】

Sugary Drinks May Fuel Colorectal Cancer Spread

2025年9月27日(土)08時25分
ハンナ・ミリントン

本研究では、ブドウ糖と果糖の混合物のみが「ソルビトール脱水素酵素(SORD)」と呼ばれる酵素を活性化することが確認された。この酵素はグルコース代謝を促進し、コレステロール経路を活性化することで、「最終的に転移を促進する」という。

肝臓は大腸がんの転移先として最も一般的な部位であるが、この経路ががん細胞を移動しやすくさせ、転移を促進していると考えられている(なお、この経路はコレステロールを下げるスタチン系薬剤が標的とする経路と同じである)。


 

しかし、ソルビトール脱水素酵素(SORD)を阻害した場合、たとえ糖分の混合物が存在していてもがんの転移速度は遅くなった。この結果から、ソルビトール脱水素酵素(SORD)を標的とすることで、がんの転移を抑制できる可能性があると研究チームは指摘する。

「腫瘍がすでに形成された段階でも、清涼飲料水を断つことで大腸がんの転移を抑えることができました。つまり、病気の進行後でも食生活の見直しに効果があるということです」とユン准教授は語る。ただし、臨床応用にはヒトを対象とした治験が必要だという。

ユン准教授のこれまでの研究では、清涼飲料水の適度な摂取量でも、肥満の有無にかかわらず早期の大腸がん細胞の増殖を促進することが示されている。

そして今回の最新研究では、進行がんにおいても清涼飲料水の制限や、ソルビトール脱水素酵素(SORD)を標的とする治療法が有効である可能性を示す結果となった。つまり、清涼飲料水の摂取量を減らすなど、食事指導の見直しにもつながるとして、ユン准教授は次のように述べる。

「次のステップは、これらの結果がヒトにも該当するかを検証することです」


【参考文献】
Tianshi Feng, Qin Luo, Yanlin Liu, Zeyu Jin, David Skwarchuk, Rumi Lee, Miso Nam, John M. Asara, Daya R. Adye, Philip L. Lorenzi, Lin Tan, Guangsheng Pei, Zhongming Zhao, Neda Zarrin-Khameh, Adriana Paulucci-Holthauzen, Brian W. Simons, Ju-Seog Lee, Scott Kopetz & Jihye Yun, Fructose and glucose from sugary drinks enhance colorectal cancer metastasis via SORD, Nature Metabolism, 19 September 2025

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