最新記事
ガン

東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」

2025年8月28日(木)16時57分
工藤進英(昭和医科大学横浜市北部病院消化器センター長、同大医学部特任教授)*PRESIDENT Onlineからの転載

6メートルもある小腸にがんが少ない理由

不思議なのは、胃で消化された食物を吸収する役割を持つ小腸(空腸と回腸)にがんが発生するのは、非常に稀だということです。

私がセンター長を務める昭和医科大学横浜市北部病院消化器センターでは年間500人を超える大腸がんの患者さんを治療しますが、小腸がんは数例にすぎません。小腸がんは、それほど少ないのです。


大腸(腸管)の長さが1.5〜2メートルなのに対し、小腸は約6〜7メートルもあります。広げるとテニスコート1面と同じくらいの面積になる大きな臓器なのに、なぜここにがんが発生しないのでしょうか。

理由はまだよく解明されていませんが、小腸は消化吸収の主戦場で、いわば「働きすぎ」のため、大腸細胞と比べて細胞のターンオーバー(新陳代謝)が速く、つまり細胞が生まれてから死ぬまでの期間が3〜7日以内と短いため、がん細胞が発生する前に細胞が死に、がんになる時間がないからなどと推測されています。

小腸の内視鏡検査はとても時間がかかりますが、幸い小腸がんの発生頻度が極めて少ないので、検査件数も多くありません。

医学会の定説は「食生活の欧米化」だが...

日本人に大腸がんが増加したのには一体どのような理由があるのでしょうか。

残念ながら原因(背景因子)は特定されていませんが、医学界の定説では食生活の変化、特に米や食物繊維摂取量が減少した代わりに、動物性食品(高脂肪・高カロリーの肉や牛乳、乳製品など)の摂取量が増加したことが大きいとされています。食生活の変化を要因とする調査結果は、各種研究の中でも最も有力なものです。

とはいえ、これだけだと説明のつかない点もあります。がんの死亡率には、地域差があるからです。青森県・岩手県・秋田県の北東北3県はかつての大腸がん死亡者数のワースト県ですが、ほかの県と比べて食生活が極端に欧米化しているかというと、別にそんなわけではありません。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、9月23日に国連演説

ワールド

クックFRB理事、トランプ氏を提訴 独立性と大統領

ビジネス

インタビュー:USスチールへの投資110億ドル、効

ビジネス

米GDP、第2四半期改定値3.3%増に上方修正 個
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ」とは何か? 対策のカギは「航空機のトイレ」に
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    米ロ首脳会談の後、プーチンが「尻尾を振る相手」...…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「風力発電」能力が高い国はどこ…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 10
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中