なぜ大衆はナチスに傾倒してしまったのか? 『全体主義の起源』と倫理思想【3分だけ哲学】
こうして、ナチスのプロパガンダにより、支配人種と奴隷人種、白色民族と有色民族、高貴な血統と下等な血統という区別が生まれ(優生思想も関連します)、これに大衆は惹かれていったのです。
結果として国民国家はドイツ人=アーリア人という図式になってしまいました。ヒトラーはユダヤ人をドイツ人とは認めず、合法的にユダヤ人排除を進めていきました。
公共性を支えるものは自由な言語活動
この地上に生きる人は1人ではなく、多数の人々です。そのひとりひとりはユニークであって、ひとつの枠でくくることはできません(複数性)。ところが、このように人間が他の人々とともに生きるという公共性をもつ社会において、それぞれの生き方がバラバラになり、公共性の歯止めが失われるときに全体主義が進みます。
アーレントは『人間の条件』の中で、古代ギリシアを例にとり、人間の基本的活動を「労働(labor)」「仕事(work)」「活動(action)」に区分しました。
「労働(labor)」とは生活の資を得るための生命維持活動です。「仕事(work)」とは、道具製作などの文化的活動を意味します。また、「活動(action)」とは、人間が「労働」「仕事」以外の時間を利用して政治について語り合う自由な言語活動のことです。
一人に任せていないか?:大衆自らが悪をおかしている
この市民による自由な「活動」こそ、公共的な政治空間としての役割(公共性)を担うものであるとアーレントは主張しました。けれども、私的な共同体の根底にあるのは、食欲などの生存本能です(共通の本性)。