最新記事

0歳からの教育

男女の違いは「生まれ」か「育ち」か、専門家がたどり着いた結論は?

Fighting Gender Bias

2021年12月16日(木)18時25分
井口景子(ジャーナリスト)

そのままの個性を尊重

こうした意識は社会に深く根差しており、個人の努力だけでは変えられない部分もある。また、ジェンダー・ニュートラルな子育てよりも、男の子/女の子らしさを大切にしたいという考え方も否定されるべきではない。

ただし、伝統的な価値観の過度の押し付けは子供の心身に悪影響を与えかねない。

アメリカ心理学会は2018年に発表したガイドラインで、「弱音を吐くな」といった伝統的な男らしさを重んじる男性ほど自殺率や、アルコール依存症などを患う割合が高いとして注意を促した。

有害なジェンダー規範を次世代に引き継がないために、まずは無意識のバイアスがないか自問してみるといいだろう。

子供は言葉を話せない時期から周囲の反応を手掛かりにして社会に受け入れられる振る舞いを学んでおり、「男の子は泣いちゃ駄目」「女の子は足を閉じて」といった何げない言葉から敏感にメッセージを感じ取ると、『子どものジェンダー構築』の著書がある福岡大学の藤田由美子教授は言う。

「無意識の価値観が言葉の端々に表れる。アンケート調査では、固定的な性的役割の意識が強い保護者ほどそうした声掛けをしがちな傾向があった」

もしもわが子にその性別に特徴的とされる傾向が見られるなら、親はむしろ逆の方向に背中を押すべきだと、米ロザリンド・フランクリン医科大学の脳神経学者リース・エリオットは指摘する。

男の子の言葉の発達が遅いなら、じっくり話を聞いて意図をくみ取ってやるべきだし、新しいことに挑戦したがらない女の子には小さな成功体験を積ませるといい。

また女性科学者や競争嫌いの男の子など典型的なジェンダー規範に合わない登場人物が活躍する本や映画を通して、多様なロールモデルに触れさせるのも効果的だ。

もっとも、親がどれほど気を配っても、子供は友達やメディアを通して異なる価値観に触れ、いずれは「男の子/女の子らしくない」選択をからかわれる経験もするかもしれない。

そんなときこそ「親は『そのままのあなたでいい』と伝えて、子供の選択を丸ごと受け入れてあげてほしい」と、藤田は言う。「その姿勢が、男女の型にとらわれずに個性を伸ばすことにつながる」

0sai_2022_mook_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE「0歳からの教育2022」が好評発売中。3歳までにすべきこと、できること。発達のメカニズム、心と体、能力の伸ばし方を科学で読み解きます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ相場が安定し経済に悪影響与えないよう望む=E

ビジネス

米製薬メルク、肺疾患治療薬の英ベローナを買収 10

ワールド

トランプ氏のモスクワ爆撃発言報道、ロシア大統領府「

ワールド

ロシアが無人機728機でウクライナ攻撃、米の兵器追
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    【クイズ】 現存する「世界最古の教育機関」はどれ?
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中