最新記事

ヘルス

健康長寿の新たな敵「フレイル」「オーラル・フレイル」とは

2020年12月24日(木)19時25分
前田 展弘(ニッセイ基礎研究所)

Q2. フレイルに関連して、「オーラル・フレイル」という言葉も聞きますが、どのようなことなのでしょうか?


フレイルに関連してもう一つ大事なことがあります。それは「オーラル・フレイル」の予防です。提唱者は東京大学高齢社会総合研究機構1で、日本歯科医師会も当概念の普及に向けた積極的な啓発活動を展開しています 。

「オーラル・フレイル」とは、直訳すると「口のフレイル」、「歯・口の機能の虚弱」になります。先ほどフレイルに至るプロセスについては、社会性の低下や筋肉(力)との関係が大きいことを述べましたが、その筋肉(力)の低下に「歯・口の機能低下」が深く関係していることが指摘されています。これは飯島他が行った「高齢期における虚弱化の原因を追究する大規模調査(縦断追跡コホート研究)2」から導き出されたことです。

具体的にどういうことかというと、歯・口の健康をおろそかにすると、噛む力や舌の動きが悪くなり、栄養摂取の面で支障を及ぼすとともに、滑舌が悪くなることで人との交流を避けるようになります。その結果、家に閉じこもりがちな生活をおくることで筋肉(力)の低下につながり、更には生きがいまでも失うような負の連鎖を招いてしまう可能性がある、ということです。なお、オーラル・フレイルは下記のように定義づけられています。


<オーラル・フレイルの定義>

「老化に伴う様々な口腔の状態(歯数・口腔衛生・口腔機能など)の変化に、口腔健康への関心の低下や心身の予備能力低下も重なり、口腔の脆弱性が増加し、食べる機能障害へ陥り、さらにはフレイルに影響を与え、心身の機能低下にまで繫がる一連の現象及び過程」3

一見、フレイルとは直接関係ないように思われる歯・口の機能低下が起点(原因)となって、社会性の低下、生活範囲の縮小、精神性の低下、低栄養、身体機能の低下をもたらしてしまう可能性があるということです4。「老いるのは"足から"(身体能力面を考慮して)」とよく言われますが、実は「"口から"老いる」が正解なのかもしれません。フレイルの予防のためには、社会性の維持や足腰のトレーニングに加えて、「歯・口の健康」にも予防的に取組んでいくことが必要です。そのためには、まず定期的な歯科検診の受診をお薦めします。

────────────────
1 平成25年度厚生労働省老人保健健康増進等事業「食(栄養)および口腔機能に着目した加齢症候群の概念の確立と介護予防(虚弱化予防)から要介護状態に至る口腔ケアの包括的対策の構築に関する研究」で設置されたワーキンググループ
2 千葉県柏市における65歳以上の地域在住高齢者2044名を対象とした「大規模虚弱予防研究(通称「柏スタディー」)」
3 日本歯科医師会HP「歯科診療所におけるオーラル・フレイル対応マニュアル2019年版」より https://www.jda.or.jp/dentist/oral_flail/pdf/manual_sec_01.pdf
4 前田展弘「老いるのは下から?上から?~注目される『オーラル・フレイル』という新概念」(ニッセイ基礎研・研究員の眼、2016.5.13)

Nissei_Maeda.jpg[執筆者]
前田 展弘
ニッセイ基礎研究所
生活研究部 主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

ニューズウィーク日本版 Newsweek Exclusive 昭和100年
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月12日/19日号(8月5日発売)は「Newsweek Exclusive 昭和100年」特集。現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中