豪華キャストと美しい映像の裏で...ウェス・アンダーソン最新作が観客の心をつかめない理由
Another Anderson Movie
例えば第2次大戦前夜の東欧を連想させる『グランド・ブダペスト・ホテル(原題: The Grand Budapest Hotel)』。美学を貫きつつ初めて歴史の悲劇を扱ったこの映画は、ユーモアと悲しみのバランスが絶妙だった。
好きな作品ではないが『アステロイド・シティ(原題:Asteroid City)』はいつもの作風を自伝的な領域にまで広げた点が見事だ。
誰にも感情移入できない
このように、私はついああでもないこうでもないとアンダーソン作品を比較してしまうのだが、新作の鑑賞中に浮かんだ問いに戻ろう。
これが予備知識なしに初めて見る彼の映画だったら?
「初心者」の私は戸惑い、退屈するだろう。何よりキャラクターの体験──恋愛であれ和解であれ暴力であれ──を等しくちゃかして描く姿勢に、抵抗を覚えるだろう。
冒頭、主人公アナトール・ザ・ザ・コルダ(ベニシオ・デル・トロ)の乗った自家用機が爆破される。
ザ・ザは武器商人にして、架空の大独立国フェニキアで奴隷まで使って巨大インフラ事業を展開しようとしている卑劣な大富豪。命を狙われるのはこれで6度目だ。