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気候変動

温暖化ストレスでホッキョクグマの遺伝子が「進化」──絶滅を免れる可能性も

Polar bears are adapting to climate change at a genetic level – and it could help them avoid extinction

2025年12月16日(火)18時00分
アリス・ゴッデン (英イースト・アングリア大学生物科学部上級研究員)
ホッキョクグマ

北極海で流氷を渡るホッキョクグマ(2009年10月) ZUMA Press Wire via Reuters Connect

<絶滅寸前と思われていたホッキョクグマの遺伝子に、気候変動に適応しようとする変化が起こっていた>

北極海の海流は、過去12万5000年で最も高温に達しており、今後も上がり続ける見通しだ。地球温暖化の影響で、2050年までにホッキョクグマの個体数の3分の2以上が失われ、今世紀末には完全な絶滅に至ると予測されている。

だが我々は最新の研究で、気候の変化がホッキョクグマのゲノムにも影響を与え、それが温暖な環境への適応を促している可能性を発見した。十分な食料と繁殖相手が確保されれば、新たな気候条件下でもホッキョクグマが生き延びる道があるかもしれない。

この研究では、グリーンランド南東部の気温上昇とホッキョクグマのDNA変化との間に強い関連があることがわかった。DNAは、生物の成長や発達を司る細胞内の「設計図」のようなもので、転写や翻訳と呼ばれるプロセスを通じてRNAに写し取られる。

DNAの情報を写し取ったRNAは、必要に応じてタンパク質やトランスポゾン(TE、いわゆる「ジャンピング・ジーン」)を作る材料になる。こうした過程を「遺伝子の発現」と呼び、RNAを通じてどの遺伝子が働いているかがわかる。TEはゲノム内を移動し、ほかの遺伝子の働きにも影響を及ぼす可動性の遺伝要素だ。

研究には、米ワシントン大学の研究グループが公開したホッキョクグマの遺伝子データを活用した。グリーンランド北部および南東部のホッキョクグマから採取された血液サンプルに基づくものだ。

研究の過程で、グリーンランドの気温は北東部と南東部とでは大きく異なることが明らかになった。

ワシントン大学の先行研究では、南東部の個体群が北東部とは遺伝的に異なることが判明している。南東部のホッキョクグマはかつて北部から移動し、約200年前に孤立したと推測されている。

今回の研究では、ワシントン大学の研究者がホッキョクグマの血液から抽出して解析したRNA配列情報をもとに、デンマーク気象研究所が詳細に記録した気温の変化によってどの遺伝子がどのように働いているかを解析した。

RNAの発現を解析することで、TE(トランスポゾン)の動きも含め、どの遺伝子が活性化しているかがわかる。

解析の結果、グリーンランド北東部は南東部より気温が低く、変動幅も小さい一方で、南東部は気温が高く不安定な傾向が見られた。とりわけ南東部では氷床の縁が急速に後退しており、グリーンランド全体の氷とホッキョクグマの生息地の大規模な喪失が進んでいる。

◾️グリーンランド全域の気温とホッキョクグマの分布
newsweekjp20251216084727.png デンマーク気象研究所の気温データをもとに筆者が作成。赤いアイコンは南東部のホッキョクグマ生息地、青いアイコンは北東部の生息地。CC BY-NC-ND(表示・非営利・改変禁止)


気温上昇でゲノムに何が起きているのか

DNAは通常、長い時間をかけて少しずつ変化するものだ。しかし、気候変動のような強い環境ストレスは、この遺伝的変化のスピードを加速させる可能性がある。

この過程に深く関わっているのが、ゲノム内を移動しながら他の遺伝子の働きに影響を及ぼすTEだ。ゲノムの中で位置を変えながら情報の流れを変える可動式の遺伝要素といえる。ホッキョクグマのゲノムの約38.1%はTEで、人間の45%と比べても少なくない。

通常の環境下では、piRNAという小さな保護RNAの一種がTEの暴走を防いでいる。しかし、環境からのストレスがあまりに強くなると、この抑制機構が追いつかず、TEが活発に動き出す。

今回の研究では、グリーンランド南東部の温暖化がこのようなTEの「活性化」を引き起こしており、ホッキョクグマのDNA配列そのものが変化していることが確認された。

南東部のホッキョクグマでは、ゲノム中の1500カ所以上でTEの活動が高まっており、遺伝子全体が気候変化に適応しようとしていることがうかがえる。

活性化が見られたTEの中には、ストレスへの反応や代謝に関わる遺伝子と重なっているものもあり、これは単なる変化ではなく、気候に適応するための生物学的反応の一部と考えられる。

TEのこうした動きを追うことで、ホッキョクグマのゲノムが環境の変化にどう短期間で反応・適応しているのかが見えてくる。

研究ではさらに、高温ストレスや老化、代謝に関わる複数の遺伝子について、南東部のホッキョクグマでは北東部の個体とは異なる発現パターンが見られた。

こうした違いは、より温暖な環境に順応しつつあることを示している可能性がある。

また、脂肪の代謝に関わるゲノム領域でもTEの活動が確認されている。これは、食料が乏しい状況で体脂肪を効率よく使う能力と関連していると考えられる。

このように、気候変動によって生息環境が大きく変わる中で、ホッキョクグマのゲノムにも変化が進んでいる。特に南東部では、新しい地形や食性に適応する方向で進化しつつあると見られる。

今後は、他の厳しい環境に生息するホッキョクグマも対象にした遺伝子研究を進める必要がある。それによって、どのような遺伝的変化が生存に寄与しているのか、またどの個体群が最も絶滅のリスクにさらされているのかを把握する手がかりになるだろう。

The Conversation

Alice Godden, Senior Research Associate, School of Biological Sciences, University of East Anglia

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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